産後の抜け毛はいつから?ピークといつまで続くか・原因と対策を元看護師が解説

窓辺のテーブルで両手にマグカップを持ち、穏やかに休む女性のイメージ|産後の抜け毛が気になる時期を過ごすシーン

お風呂の排水口を見て、思わず手が止まる。ブラシに絡んだ髪をつまみ上げて、「こんなに抜けて大丈夫なの」と不安になる。赤ちゃんを抱っこしていると、肩や服にまで髪がついている——産後3か月ごろ、そんな毎日を過ごしている方は本当にたくさんいます。

産後の体はいろいろなことが一度に起こるので、抜け毛が始まると「私だけおかしいのかな」「このままハゲてしまうんじゃないか」と、ひとりで抱え込みやすいテーマでもあります。育児で余裕がないときほど、鏡の中の自分を見るのがつらくなりますよね。

こんにちは、ちなみです。元看護師で、男の子と女の子の2児の母をしています。私自身も、上の子のときも下の子のときも、産後しばらくして抜け毛の時期がありました。当時いちばん知りたかったのは「いつまで続くのか」でした。

この記事では、産後の抜け毛がなぜ起こるのかというしくみから、始まる時期・ピーク・落ち着くまでの見方、量の目安、自分でできること、そして病院に相談したほうがいい場合まで、公的機関や学会の情報をもとに整理していきます。特定の商品をすすめることはしません。

産後の抜け毛(分娩後脱毛症)とは?まず知ってほしいこと

最初にいちばん大事なことをお伝えします。産後の抜け毛は、髪が弱ってしまった結果ではなく、妊娠中に抜けずに残っていた髪が、遅れてまとめて生え替わっている現象として説明されています。

妊娠中に「抜けなかった分」が、産後にまとめて出てくる

MSDマニュアル家庭版は、産褥期(さんじょくき)のケアの説明のなかで、出産後の髪について次のように整理しています。妊娠中はエストロゲン(女性ホルモンの一種)の値が高くなるため毛髪が増えたように感じられ、出産後にエストロゲンの濃度が元に戻ると、その増えていた分の毛髪が抜け落ちる、という流れです。

つまり、産後に一気に抜けているように見える髪の多くは、本来なら妊娠中に少しずつ抜けるはずだったものです。妊娠中に「抜け毛が減った」「髪が増えた気がする」と感じていた方ほど、産後にその差を大きく感じやすい、という関係になります。

なお、産褥期とは分娩から6週間の期間で、母体が妊娠前の状態に戻るまでの期間を指します。ただし抜け毛に関しては、この6週間で終わる話ではありません。この点はあとで詳しくお伝えします。

参考 産褥期のケアの大まかな説明MSDマニュアル家庭版

「休止期脱毛」というしくみで説明できる

産後の抜け毛は、医学的には分娩後脱毛症と呼ばれることがあります。そして、そのしくみは「休止期脱毛(きゅうしきだつもう)」という、もっと大きな枠組みのなかに位置づけられています。

日本皮膚科学会は、皮膚科Q&Aのなかで「大きな手術、重症の感染症、妊娠、過激なダイエットなどの後に、毛の抜けかわりが影響をうけ、抜け毛が増える休止期脱毛という現象も知られています」と説明しています。妊娠・出産は、体にとってそれだけ大きなできごとだということです。

ここで押さえておきたいのは、休止期脱毛は「毛を作る力そのものが壊れた」状態ではない、ということです。同じく日本皮膚科学会は、毛が再び生えるかどうかは毛包(もうほう。毛を作る根元の器官)が受けたダメージの程度によるとしたうえで、幹細胞が完全に壊されてしまうと永久脱毛になりうる、と説明しています。裏を返せば、そこまでのダメージが起きていない生え替わりであれば、また生えてくることが期待できるということになります。

ちなみ(元看護師)

看護師時代、産後の患者さんから「髪が抜けるのは体が弱っているサインですか」と聞かれることが何度かありました。抜け毛の量そのものは、体力の低下と直接イコールではないんです。まずはそこを切り離して考えてもらえたらと思います。

参考 脱毛症 Q17 他の病気と関連する脱毛はありますか?公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A

そもそも髪は毎日抜けている

産後の抜け毛を考えるうえで、「もともとどれくらい抜けているのか」を知っておくと気持ちがかなり楽になります。日本皮膚科学会の説明をまとめると、次のようになります。

髪と毛周期の基本(日本皮膚科学会の説明より)
  • 頭髪は約10万本あるとされ、そのほとんど(約85〜90%)が「伸びる毛」=成長期の毛
  • 成長期はおよそ2〜6年続く
  • そのあと退行期を経て、休止期は2〜3か月
  • 毛は1日約0.4mm伸びる
  • 一日に抜ける量は個人差・季節差・ヘアケアの仕方にもよるがおおよそ一日100本程度までといわれている

ふだんから一日100本近くは抜けている、というのは意外に思われるかもしれません。産後はここに「妊娠中に抜けずに残っていた分」が上乗せされるので、排水口やブラシの量が急に増えたように見えるわけです。

参考 脱毛症 Q1 毛が伸びる、または生えかわる仕組みはどのようになっているのでしょうか?公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A

産後の抜け毛はいつから始まる?

「いつから始まるのか」は、産後の抜け毛でいちばん多く検索されている疑問のひとつです。ただ、この答えには幅があります。

目安は「出産から数か月後」

MSDマニュアル家庭版は、休止期脱毛について「一般的には、ストレスが生じてから数カ月後に毛髪が抜けます」と説明しています。ここでいうストレスは精神的なものだけでなく、出産・手術・高熱を伴う大きな病気といった体への負荷も含みます。

より具体的な目安として、MSDマニュアル プロフェッショナル版(医療者向けの版)では、妊娠・重度の発熱性疾患・手術などの大きなできごとの3〜4カ月後に生じる脱毛は休止期脱毛を示唆する、と記載されています。

「産後3か月ごろから急に増えた」という声が多いのは、このタイミングとよく重なります。しくみのうえでも自然な流れなんですね。

「産後すぐ」「半年経ってから」も珍しくない

一方で、先ほどのMSDマニュアル家庭版の産褥期の説明では、多くの女性が出産後最初の数週間に脱毛について心配を持つ、という趣旨のことも書かれています。つまり、もっと早い時期から気づく方もいるということです。

反対に、産後5〜6か月になってから「そういえば最近多いかも」と気づく方もいます。始まりの時期にはかなり個人差があるので、「◯か月なのに始まらない」「もう◯か月なのに始まった」と、時期そのもので不安になる必要はありません。

時期ごとの見え方の目安
  • 産後〜1か月ごろ:気づく方は少数。ただし「入院中から多い気がする」という声もある
  • 産後2〜4か月ごろ:ここで気づく方がもっとも多い時期。休止期脱毛のしくみとも合う
  • 産後5〜6か月ごろ:ここから増えたと感じる方もいる。遅れて始まっても異常ではない
  • 産後半年以降:抜ける量が落ち着いてくるとともに、生え際に短い毛が目立ちはじめる方が多い

※あくまで見え方の目安です。医学的に確定した「開始日」があるわけではありません

参考 脱毛症(脱毛)MSDマニュアル家庭版

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ピークと、いつまで続くのか

ここがいちばん知りたいところだと思います。正直にお伝えすると、「産後◯か月で終わります」と言い切れる数字は、公的機関や学会の資料には示されていません

断定できる数字がないのはなぜか

インターネット上には「産後半年でピーク、1年で落ち着く」といった具体的な数字がよく出てきます。ただ、それらの多くは出典が明示されていないか、商品を扱うページに掲載されているものです。この記事では、確認できる一次資料にない数字は書かない方針にしています。

そのうえで、確かなこととしてMSDマニュアル家庭版は、この種の脱毛について「多くの場合、永久的なものではありません」と明記しています。終わりが見えないように感じても、生え替わりのプロセスとして進んでいる、というのが基本の理解になります。

毛周期から考えると、時間がかかるのは自然なこと

日本皮膚科学会の説明にあった数字を思い出してみてください。休止期は2〜3か月、そして毛は1日約0.4mmずつ伸びます。

単純に計算すると、1か月で約1.2cm。抜けたところに新しい毛が生えて、周りの髪と同じ長さになるまでには、どうしても年単位に近い時間がかかります。抜けるのは一気なのに、戻るのはゆっくり。この非対称さが、「いつまで続くの」という焦りの正体でもあります。

逆に言えば、抜ける量が落ち着いてからも、見た目が元どおりになるまでにはさらに時間がかかるということです。「抜けるのが止まったのに、まだスカスカに見える」と感じるのは、失敗ではなく順番どおりの経過です。

終わりのサインは、日数ではなく「短い毛」

「何か月経ったか」を数えるより、はるかに役に立つ目印があります。それは生え際やつむじのあたりに、ピンと立った短い毛が出てきているかどうかです。

あの短い毛は、抜けたあとに成長期へ戻った毛が伸びはじめているサインです。触るとチクチクしたり、アホ毛のように立ち上がってまとまらなかったりして、正直やっかいな存在なのですが、いちばん確かな「回復に向かっている証拠」でもあります。

ちなみ(元看護師)

私も生え際の短い毛がピンピン立って、鏡を見るたびにため息が出ていました。でも「これは生えてきた毛なんだ」と思えるようになってから、ずいぶん気持ちが変わりましたよ。

どれくらい抜けたら「ひどい」の?量の見方

「これって多すぎないかな」と感じたとき、どう判断すればいいのでしょうか。

本数を数えるより、比べる相手は「先週の自分」

目安として一日100本程度まで、という数字はありますが、育児をしながら抜けた毛を数えるのは現実的ではありませんし、数えたところで不安が増えるだけのことも多いです。

それよりも、次の見方をおすすめします。

量の見方の3つの軸
  • 方向:先週・先月と比べて、増える方向か・落ち着く方向か
  • 範囲:全体的にまんべんなく薄くなっているか、それとも一部だけ円形に抜けているか
  • ほかの症状:強い疲れ・動悸・気分の落ち込み・皮膚の乾燥などを一緒に感じていないか

産後の抜け毛は、基本的に全体的にボリュームが落ちる形で進みます。一部分だけがきれいな円形に抜けている場合は、別の脱毛(円形脱毛症など)の可能性もあるので、この記事の後半にある受診の目安を見てみてください。

写真と見比べても、答えは出にくい

「ほかの人の産後の抜け毛はどんな感じなんだろう」と、画像を探したくなる気持ちはとてもよくわかります。自分の状態が普通の範囲なのか確かめたいですよね。

ただ、髪の量・色・長さ・分け目のクセ・撮影の角度と光——見え方を左右する条件が多すぎて、写真1枚と見比べて「自分は重い・軽い」を判断することはできません。同じ抜け方でも、髪が細い方と太い方では見え方がまったく違います。

だからこの記事では、他人の頭皮の写真ではなく、先ほどの3つの軸(方向・範囲・ほかの症状)で見ることをおすすめしています。比べる相手は他人ではなく、少し前の自分です。

抜けなかった人もいるのはなぜ?

「まわりのママは全然抜けなかったって言っていた」——これも、よく聞く話です。実際、産後の抜け毛をほとんど自覚しない方はいます。

ただ、その差を説明できる「これが原因」という条件は、公的な資料では特定されていません。もともとの髪の量や太さ、髪型、妊娠中にどれくらい抜け毛が減っていたか、抜けた量に気づきやすい生活かどうか——いろいろな要素が重なっての違いと考えられます。

大事なのは、抜けた側が「何か悪いことをした」わけではないということです。食事を手抜きしたから、睡眠が足りないから、母乳をあげているから——そんなふうに自分を責める材料にしないでください。妊娠中にどれだけ髪が残っていたかの差が、そのまま産後の見え方の差になっている部分が大きいのです。

授乳・母乳との関係は?

「母乳をあげているから抜けるの?」「断乳したら止まる?」という疑問もよくあります。

先に見たとおり、産後の抜け毛は妊娠中に高くなっていたエストロゲンが出産後に元に戻ることによる変化として説明されています。授乳をやめれば抜け毛が止まる、という因果関係を示した公的な資料は見当たりません。

ですので、抜け毛を理由に断乳を決める必要はありません。授乳をどうするかは、赤ちゃんとご自身の状況で決めていいことです。

ただし、授乳期は栄養や休息の面で体に負担がかかりやすい時期でもあります。バランスのとれた食事と休息が大切なのは、抜け毛のためというより、産後の体全体のためです。

前髪・生え際がスカスカに見えるとき

産後の抜け毛でとくに気になりやすいのが、前髪や生え際です。分け目が広く見えたり、おでこの上のあたりが薄く感じられたりします。

短い毛が出てくると、余計にスカスカに見える時期がある

ややこしいのですが、生え際は「抜けて薄く見える時期」と「短い毛が生えてきてまとまらない時期」が続けてやってきます。後者は回復のサインなのに、鏡の中では前者より落ち着かなく見えることもあります。

この時期をどう乗り切るかは、髪そのものを変えるというより、見え方や扱いやすさの工夫の話になります。

生え際が気になる時期の工夫
  • 分け目を少しずらす:いつも同じ位置で分けていると、その線が目立ちやすくなります
  • きつく結ばない:日本皮膚科学会も「髪に負担のかかるような髪型」は避けることをすすめています
  • 短い毛はなでつけて落ち着かせる:無理に引っぱって隠そうとしない
  • 美容院で相談する:産後であることを伝えれば、生え際の短い毛を活かす切り方を提案してもらえることがあります

短い毛をピンで強く留めたり、きつく引っぱってまとめたりするのは避けたいところです。せっかく生えてきた毛に、余計な負担をかけたくないですよね。

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産後の抜け毛に、自分でできること

ここまで読んで、「じゃあ何をすればいいの」と思われたかもしれません。日本皮膚科学会が挙げている生活上の注意点は、拍子抜けするほどシンプルです。

髪と頭皮に負担をかけない

日本皮膚科学会は、抜け毛を防ぐ生活上の注意点として「髪に負担のかかるような髪型や極端に頻回のカラーリングはなるべく避けましょう」としています。頭皮のケアについては「自分にあったシャンプーやコンディショナーを使用し、頭皮が乾燥しすぎたり油っぽくならない頻度での洗髪を心がけましょう」という説明です。

ここで注目したいのは、「特定の成分のシャンプーを使いなさい」とは書かれていないことです。あくまで自分に合ったもので、洗いすぎず・洗わなすぎず、というバランスの話なんですね。

「抜けるのが怖くて洗えない」という声も聞きますが、洗髪を控えても抜ける毛が減るわけではありません。休止期に入って抜ける準備ができた毛は、洗っても洗わなくても、いずれ抜けます。頭皮を清潔に保つほうが大切です。

食事はバランスを意識する

同じく日本皮膚科学会は、髪の毛の新陳代謝には各種のビタミン・ミネラルが関係しているため、バランスの取れた食生活が重要としています。

また、脱毛と関係しうるものとして亜鉛欠乏症を挙げています。産後は出血もあり、鉄が不足しやすい時期でもあります。特定の栄養素だけを大量にとるという発想ではなく、主食・主菜・副菜がそろう食事を、無理のない範囲で意識してみてください。

とはいえ、産後の生活で毎食きちんと整えるのは、正直むずかしいですよね。作れない日は総菜でもレトルトでもかまいません。「食べないよりは食べる」で十分です。

鉄や栄養については、妊娠中の貧血の記事でも詳しくまとめています。産後にも通じる内容なので、あわせて読んでみてください。

妊娠中の貧血はなぜ起こる?症状・治療・食事対策を元看護師ちなみが解説

休息と睡眠は「まとめて」でなくていい

日本皮膚科学会は「無理をせず、適度に休息をし、規則正しい生活を送ることも重要」として、身体に過度の負担がかかることで起こる脱毛を防ぐ観点を挙げています。

ただ、産後に「規則正しい生活」と言われても困ってしまいますよね。夜間授乳がある時期に、まとまった睡眠を確保するのは現実的ではありません。

ですので、「まとめて眠る」ではなく「横になれるときに横になる」に置き換えて考えてみてください。赤ちゃんが寝ている間に家事を片づけたくなる気持ちはわかりますが、体を休めるほうを優先していい時期です。

参考 脱毛症 Q18 抜け毛を防ぐ生活上の注意点はあるでしょうか?公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A

育毛剤・サプリ・専用シャンプーはどう考える?

産後の抜け毛について調べると、育毛剤やサプリメント、専用シャンプーの情報がたくさん出てきます。「何か使ったほうがいいのかな」と迷いますよね。

ここでお伝えしたいのは、産後の抜け毛は、そもそも生え替わりの経過として自然に落ち着いていくものとして説明されているということです。何かを使わなければ戻らない、というものではありません。

授乳中・産後に使うものについて
育毛剤や医薬品、サプリメントのなかには、妊娠中・授乳中の使用について注意書きがあるものがあります。「産後向け」と書かれていても、授乳中に使ってよいかを自己判断で決めないでください。使いたいものがあるときは、必ずパッケージや添付文書の記載を確認し、迷うときは薬剤師・医師・助産師に相談してください。

使うこと自体を否定するつもりはまったくありません。ただ、「使わなかったから戻らない」ということはない、というのは知っておいてほしいところです。産後は出費も気力も限りがあります。優先順位は、ご自身で決めて大丈夫です。

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病院に相談したほうがいいのはどんなとき?

産後の抜け毛の多くは経過を見ていける変化ですが、「産後だから」で片づけないほうがいいケースもあります。ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。

相談を考えたいサイン
  • 一部分だけが円形にはっきりと抜けている
  • 抜けている部分の地肌が赤い・硬い・かさぶたがある・痛みやかゆみが強い
  • 抜け毛と一緒に、強い疲れ・動悸・暑がり・神経質さを感じる
  • 抜け毛と一緒に、気分の落ち込み・集中力の低下・皮膚の乾燥が続いている
  • 産後1年を過ぎても抜ける量が落ち着く気配がなく、生えてくる様子もない
  • まゆ毛やまつ毛など、頭髪以外の毛も抜けている

産後の甲状腺の変化が隠れていることがある

これは、あまり知られていないけれど大事な話です。

日本産婦人科医会は、妊娠前には甲状腺機能異常がなく、分娩後1年以内に認められる一過性の甲状腺機能異常を産褥性甲状腺炎と呼ぶ、と説明しています。そして、その低下期の症状として「脱毛」がはっきり挙げられています

産褥性甲状腺炎について(日本産婦人科医会の説明より)
  • 妊娠前には甲状腺機能異常がなく、分娩後1年以内に認められる一過性の甲状腺機能異常
  • 亢進型・古典型は産褥2〜6か月頃に亢進状態で発症し、分娩後1年までに自然緩解するとされる
  • 低下型は分娩後3〜12か月に発症
  • 亢進期の症状:易疲労感と動悸が主。暑がり、神経質など
  • 低下期の症状:易疲労感、脱毛、うつ気分、集中力の低下、皮膚乾燥など

注目してほしいのは、低下期の症状が「疲れる・気分が落ち込む・集中できない・髪が抜ける」という、産後なら誰にでも起こりそうな内容だということです。だからこそ「産後だから当たり前」と流されやすいのです。

抜け毛だけが単独で気になるのであれば、まずは経過を見ていいと思います。でも抜け毛に加えて、強い疲れや動悸、気分の落ち込みがセットで続いているときは、一度相談してみる価値があります。血液検査で調べられるものですし、確認して問題がなければそれで安心できます。

参考 (4)産褥性甲状腺炎公益社団法人日本産婦人科医会

ほかの病気と関係する脱毛もある

日本皮膚科学会は、毛も内臓の状態を映す鏡のようなもの、という考え方を紹介したうえで、他の病気に関連する脱毛症が知られていると説明しています。具体的には、膠原病(こうげんびょう)の一症状としての脱毛、甲状腺機能低下症・副腎皮質機能不全症・亜鉛欠乏症による脱毛、感染症による脱毛などです。

さらに重要な指摘として、一部の脱毛では治療開始が遅れると脱毛部の皮膚が線維化して硬くなり、永久に毛が生えなくなってしまう(瘢痕性脱毛)ため、早期診断・早期治療が極めて重要としています。

だからこそ、抜けている部分の地肌が赤い・硬い・痛いといったときは、「産後だから」で様子を見続けないでほしいのです。

何科に行けばいい?

迷いやすいところなので、整理しておきます。

相談先の選び方
  • 皮膚科:抜け方が円形、地肌に赤み・硬さ・かゆみがある、頭皮そのものを診てほしいとき
  • 産婦人科・内科:抜け毛に加えて強い疲れ・動悸・気分の落ち込み・皮膚の乾燥があり、産後の体調全体が気になるとき
  • 1か月健診・産後ケア・助産師相談:受診するほどではないけれど誰かに聞いてほしいとき。産後ケア事業は多くの自治体で実施されています

「抜け毛くらいで病院に行っていいのかな」と遠慮する必要はありません。気になっている、というだけで相談する理由になります。

産後の甲状腺の変化は、抜け毛だけでなく月経にも影響することがあります。生理がなかなか戻らない、戻ったのに周期が整わないといった変化が抜け毛と重なっているときは、こちらの記事もあわせて読んでみてください。

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抜け毛がつらいのは、見た目のことだけじゃない

最後に、しくみの話とは別のことを書かせてください。

産後の抜け毛がしんどいのは、髪が減ることそのものだけが理由ではないと思うんです。体型も体調もまだ戻らない、睡眠も細切れ、自分のことを後回しにする毎日——そのなかで、鏡を見るたびに「自分が自分でなくなっていく」ような感覚になる。それがつらいのだと思います。

もしいま、抜け毛のことを考えると涙が出る、何をしても気持ちが晴れない、という状態が続いているなら、それは髪の問題として抱え込まなくていいことかもしれません。産後は気持ちが大きく揺れやすい時期です。

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気分の落ち込みが2週間以上続いているときの考え方については、産後うつの記事でも詳しく書いています。

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まとめ

産後の抜け毛でおさえておきたいこと
  • 産後の抜け毛は、妊娠中に抜けずに残っていた髪がまとめて生え替わっている現象として説明されている(休止期脱毛)
  • 始まる時期の目安は出産から数か月後。医療者向けの資料では3〜4カ月後という目安が示されている
  • 「いつまで」に確立された数字はないが、この種の脱毛は多くの場合永久的なものではないとされている
  • 毛周期は休止期2〜3か月、毛は1日約0.4mm。抜けるのは一気、戻るのはゆっくりが自然な経過
  • 回復のサインは日数ではなく、生え際の短い毛
  • 量は本数を数えるより方向・範囲・ほかの症状の3つの軸で見る
  • できることは、髪と頭皮に負担をかけない・バランスのとれた食事・横になれるときに休むというシンプルなこと
  • 円形に抜ける/地肌が赤い・硬い/強い疲れや動悸・気分の落ち込みを伴うときは相談を。産後の甲状腺の変化が隠れていることがある

排水口の髪を見るたびに落ち込む日々は、本当にしんどいものです。でも、いま抜けているのは「妊娠中にがんばって残ってくれていた髪」でもあります。役目を終えて、次の毛に場所を譲っているところなんですね。

やることは多くありません。髪をいたわりながら、食べられるものを食べて、横になれるときに横になる。そして生え際に短い毛が出てきたら、心のなかで「おかえり」と言う。それで十分です。

そして、気になるサインがあるときは遠慮なく相談してください。産後のあなたの体は、赤ちゃんと同じくらい大切にされていいものです。

よくある質問(産後の抜け毛|FAQ)

Q産後の抜け毛はいつから始まりますか?

A.MSDマニュアル家庭版は、休止期脱毛について「一般的には、ストレスが生じてから数カ月後に毛髪が抜けます」と説明しています。MSDマニュアル プロフェッショナル版では、妊娠などの大きなできごとの3〜4カ月後に生じる脱毛は休止期脱毛を示唆する、というより具体的な目安が示されています。ただし始まる時期には個人差があり、退院してすぐ気づく方も、半年近く経ってから増えたと感じる方もいます。

Q産後の抜け毛はいつまで続きますか?

A.「何か月で終わる」という確立された数字は、公的機関の資料には示されていません。ただしMSDマニュアル家庭版は、この種の脱毛について「多くの場合、永久的なものではありません」としています。日本皮膚科学会によると休止期は2〜3か月、そのあと成長期に入った毛が1日約0.4mmずつ伸びていくため、元の長さに戻るまでにはどうしても時間がかかります。日数を数えるより、生え際に短い毛が出てきているかを目印にしてください。

Q一日にどれくらい抜けたら多すぎますか?

A.日本皮膚科学会は、一日に抜ける毛の量について「個人差、季節差、ヘアケアの仕方などにもよりますがおおよそ一日100本程度まで」としています。産後はこれを超えて感じられることが多いのですが、実際に数えて判断するのは現実的ではありません。本数より、抜ける量が前の週より減る方向に向かっているかを見るほうが役に立ちます。

Q授乳をやめれば抜け毛は止まりますか?

A.産後の抜け毛は、妊娠中に高くなっていたエストロゲンが出産後に元に戻ることで起こる変化として説明されています(MSDマニュアル家庭版)。授乳をやめれば止まる、という因果関係を示した公的な資料は見当たりません。断乳を抜け毛対策として決める必要はありません。授乳を続けるかどうかは、抜け毛とは切り離して考えて大丈夫です。

Q産後の抜け毛で病院に行くなら何科ですか?

A.髪や頭皮そのものの状態を診てもらいたいときは皮膚科です。強い疲れ・動悸・気分の落ち込み・皮膚の乾燥などをいっしょに感じているときは、産後の甲状腺の変化が関係していることもあるため、産婦人科や内科に相談する道もあります。1か月健診や産後ケアの場で助産師さんに話してみるのも、立派な第一歩です。

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