「朝、ベッドから起き上がるときに腰が固まって動けない」「抱っこするたびに腰にズキンと響く」「産む前はこんなに痛くなかったのに」——赤ちゃんのお世話が始まったばかりの体で、こんな痛みを抱えたままこの記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
産後の腰痛は「よくあること」で片づけられがちですが、実際には日常のすべてに響きます。抱っこができない、授乳のたびにつらい、夜に寝返りが打てない——赤ちゃんのお世話は待ってくれないのに、体だけが動かない。この状況で「そのうち治るよ」と言われても、まったく気持ちは軽くなりません。
この記事では、元看護師で2児の母である私「ちなみ」が、産後の腰痛について、なぜ起こるのか、いつまで続くのか、起き上がれないほど痛い日をどうしのぐのか、授乳中に痛み止めや湿布を使えるのか、そしてどこへ相談すればいいのかを、学会や公的機関の情報をもとに整理しました。とくに「無痛分娩の麻酔のせいでは?」という不安には、産科麻酔の専門学会がはっきり答えを出しているので、そこも含めて書いています。
目次
- 産後に腰が痛くなるのはなぜ?——「いきみ方が悪かった」わけではありません
- 「無痛分娩の麻酔のせいで腰痛になった」と言われるけれど
- 産後の腰痛はいつまで続く?——時期ごとの見通し
- 起き上がれないほど痛い日をしのぐ——動き方の手順
- 腰を痛めているのはこの動作——授乳・抱っこ・寝る姿勢
- 安静にすべき?動いたほうがいい?——温める・冷やすも含めて
- 授乳中に痛み止めや湿布は使える?
- 骨盤ベルトは効く?いつから、いつまで
- 何科に行けばいい?——産婦人科・整形外科・整骨院の使い分け
- 見逃したくない受診のサイン
- ひとりで抱えないために——産後ケア事業という選択肢
- ちなみから|痛みの強さは、がんばりの量では決まりません
- まとめ|産後の腰痛は、体の条件がそろって起きています
- よくある質問(産後の腰痛|FAQ)
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産後に腰が痛くなるのはなぜ?——「いきみ方が悪かった」わけではありません
産後の腰痛は、出産の一日だけで起こるものではありません。妊娠中の10か月でつくられた体の状態に、出産という負荷と、産後の育児という毎日の動作が重なって表に出てきます。順番に見ていくと、自分の体に何が起きているのかがつかめます。
ゆるんだ靭帯は、産んだ瞬間には元に戻らない
妊娠すると、骨盤まわりの靭帯(骨と骨をつなぐ丈夫なひも)がやわらかくなります。赤ちゃんが産道を通れるようにするための、必要な変化です。日本産科麻酔学会も、妊娠にともなって背中の靭帯がやわらかくなることを、妊娠中から産後の腰痛が起こる背景として説明しています。
ここで大事なのは、やわらかくなった靭帯は出産した瞬間にパチンと元に戻るわけではないということです。産後もしばらくは、骨盤や背骨を支える力が落ちたままの状態が続きます。産んだのに腰が痛いのは、この「戻る途中」にいるからです。
妊娠中の腰痛はなぜ起きる?時期別の特徴・セルフケア・受診目安を元看護師が解説
妊娠中の反り腰のクセが、産後まで残る
妊娠後期、大きくなったお腹の重みで体は前へ引っぱられます。そのままでは前に倒れてしまうので、無意識に上半身を後ろへそらしてバランスを取ります。これがいわゆる反り腰の姿勢です。
お腹が小さくなれば自然に戻りそうなものですが、10か月かけて身についた立ち方・歩き方のクセは、そう簡単には抜けません。おなかの重みだけが消えて、姿勢のクセは残っている——この状態で立ったり歩いたりすると、腰の一部にだけ負担が集中します。「産後のほうがむしろ痛い」と感じる方がいるのは、これが理由のひとつです。
支える側の筋肉が、いちばん弱っている時期
お腹まわりの筋肉は、妊娠中に大きく引き伸ばされています。骨盤の底で内臓を支える骨盤底筋も、妊娠中の重みと出産で強い負担を受けています。骨盤と背骨を支える役割の筋肉が、いちばん力を出しにくい時期にあるということです。
靭帯はゆるみ、筋肉は弱っている。その状態で、次に見るような育児の動作が始まります。腰に負担が集まるのは、当然といえば当然のことです。
1日に何十回もの前かがみ——これがいちばんこたえる
育児の動作を思い浮かべてみてください。
- 床に寝かせた赤ちゃんを抱き上げる
- ベビーベッドの柵ごしに抱き上げる、下ろす
- おむつ替えのために中腰でかがむ
- 沐浴で前かがみのまま支え続ける
- 授乳のたびに背中を丸めて赤ちゃんを覗き込む
- 抱っこしたまま床のおもちゃを拾う
どれも前かがみと中腰です。日本整形外科学会も、腰痛への対処として「中腰にならないなど日常的姿勢に注意する」ことを挙げています。ところが産後の生活は、その中腰を1日に何十回も繰り返す設計になっています。しかも赤ちゃんは日ごとに重くなっていきます。
ちなみ(元看護師)
帝王切開でも腰は痛くなります
「いきんでいないのに腰が痛い」と不思議に思う方がいます。けれどここまで見てきたとおり、腰痛の背景にあるのは妊娠中の靭帯のゆるみ・姿勢のクセ・筋力の低下・産後の育児動作で、これらは帝王切開でも同じように起こります。
むしろ帝王切開のあとは、傷をかばって不自然な姿勢になったり、体を起こすときにお腹に力を入れられなかったりして、腰にまわる負担が増えることがあります。「いきんでいないから腰は関係ないはず」ということはありません。
帝王切開とは?流れ・痛みはいつまで・入院期間や費用を元看護師が解説
睡眠不足そのものが、痛みを強くする
見落とされがちなのがここです。細切れの睡眠が続くと、同じ刺激でも痛みを強く感じやすくなります。夜中に何度も起きて授乳し、日中も横になれない——その状態が痛みの感じ方そのものを底上げしていることがあります。
「気のせいでは」という話ではありません。眠れていないときは実際につらい、というだけのことです。あとで書く「頼れる先」の話が効いてくるのは、まさにこの部分です。
夜間授乳はいつまで?月齢別の目安と「起こすべきか」の判断を元看護師が解説
「無痛分娩の麻酔のせいで腰痛になった」と言われるけれど
無痛分娩や帝王切開で背中に麻酔を受けた方から、必ずと言っていいほど出てくる不安です。「背中に針を刺したから腰が痛いんじゃないか」「あのとき麻酔をしなければよかったのか」——ここは、はっきりした答えがあります。
日本産科麻酔学会は、妊娠中から産後の腰痛について、その多くは妊娠にともなって背中の靭帯がやわらかくなり、大きくなった子宮の重みで背骨への負担が増えることで起こると説明しています。そのうえで、腰痛は硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されているとしています。
参考 Q14. 硬膜外鎮痛の副作用が心配です。日本産科麻酔学会
つまり、麻酔をしたグループと、しなかったグループで、腰痛の起こりやすさは変わらなかったということです。無痛分娩を選んだことが産後の腰痛の原因になった、とは言えません。
- 針を刺した場所そのものの痛み——背中の一点を押すと痛い、というタイプ。多くは数日で落ち着いていきます
- 腰全体の痛み——起き上がるとき、抱っこするとき、前かがみのときに響くタイプ。これが「産後の腰痛」で、麻酔の有無にかかわらず起こります
この2つは別のものです。前者が長く続く、熱が出る、刺した場所が赤く腫れる——といったときは、麻酔を受けた施設に連絡してください。
「あのとき無痛分娩を選んだせいだ」と自分を責めていた方には、ここでいったん荷物を下ろしてほしいと思います。
無痛分娩とは?メリット・デメリットから費用まで元看護師が解説
産後の腰痛はいつまで続く?——時期ごとの見通し
もっとも多い検索が「いつまで」です。正直に書くと、産後の腰痛には「◯か月で治る」という一律の答えはありません。ただし、体のどこが回復していく時期なのかがわかれば、いま自分がどのあたりにいるのかはつかめます。
産後すぐ〜入院中——痛みが出ていることに気づく時期
出産直後は、後陣痛や会陰の傷など、ほかの痛みのほうが目立ちます。腰の痛みは、ベッドから起き上がろうとしたとき、授乳のために座り続けたときに「そういえば腰も痛い」と気づくことが多い時期です。
この時期は、無理に姿勢を正そうとするより、起き上がり方を変えるだけで大きく違います。具体的な手順はこのあとのセクションに書きました。
後陣痛とは?いつからいつまで続く・どんな痛み・和らげ方を元看護師が解説
産後1か月ごろ——動く量が増えて、痛みが表に出てくる
退院して家に戻り、自分の生活が本格的に始まる時期です。抱っこ・おむつ替え・沐浴の回数が一気に増えるため、ここで腰痛がはっきりしてくる方が多いです。「入院中は平気だったのに、家に帰ってから痛くなった」というのは、よくある流れです。
1か月健診があるので、腰痛について相談できる最初のタイミングでもあります。ここで言っておくと、その後がぐっと楽になります。
産後2〜3か月ごろ——山を越える人と、居座られる人に分かれる
この時期になると、靭帯のゆるみは少しずつ戻り、動ける範囲も広がってきます。多くの方が「前より楽になった」と感じはじめます。
一方で、ここでまだ強い痛みが続いている場合は、姿勢のクセや動作のパターンが固定してしまっていることがよくあります。赤ちゃんの体重が増えて負荷が上がる時期でもあるので、「そのうち治る」で放置しないほうがいい分かれ目です。
産後半年〜1年——「まだ痛い」は珍しくない、けれど確認はしたい
半年たっても腰痛が残っている方はいます。抱っこの重さは増える一方ですし、生活の中で腰を使い続けているのですから、不思議なことではありません。
ただし、日本整形外科学会は腰痛について、放置したり自分で管理したりすることは禁物だとしています。半年以上続いているなら、それは「産後だから」だけで説明できるものか、一度確認しておく価値があります。
「いつまで」を分けているのは、この3つ
同じ時期に産んでも、回復のスピードには差が出ます。実際に差がつきやすいのは、体質より次の3点です。
- 抱っこと授乳の姿勢が変わったかどうか——1日に何十回も繰り返す動作なので、ここが変わらないと負荷はかかり続けます
- まったく動かない期間が長すぎないか——痛いから動かない、動かないから支える力が落ちる、という悪循環に入りやすい時期です
- 相談できたかどうか——ひとりで抱えているほど、対処が遅れます
つまり、時間が過ぎるのを待つより、この3つのうち手が届くものから変えていくほうが早いということです。

起き上がれないほど痛い日をしのぐ——動き方の手順
「朝ベッドから起き上がれない」「布団から立てない」という状態は、産後の腰痛でとても多い訴えです。ここは根本的な話をあと回しにして、今日をしのぐための動き方から書きます。
ポイントはひとつだけです。腰を「ねじらない」「ひとりで持ち上げない」。この2つを避けるだけで、同じ痛みでも動ける量が変わります。
痛みが強い日に、やらないほうがいいこと
- 仰向けのまま、腹筋の力だけで上体を起こす——腰にいちばん負担がかかる起き方です
- 体をひねりながら手を伸ばす——リモコン・スマホ・オムツを取ろうとして「ギクッ」となるのは、たいていこの動きです
- 床から一気に赤ちゃんを抱き上げる——膝を使わず腰から曲げると、腰だけで持ち上げることになります
- 痛いからと1日じゅう横になり続ける——このあと書きますが、動かなさすぎもよくありません
ベッドから起き上がる——横向きを経由する
看護の現場で、腰や背中に負担をかけない起き上がり方として使われている手順です。産後の入院中にも同じことをすすめられた方がいるかもしれません。
- まず横を向く。仰向けのまま起きようとせず、肩と腰と膝を同時に、ひとかたまりで横に転がすイメージで向きを変えます。上半身だけひねらないのがコツです
- 両膝を軽く曲げて、ベッドの端から足を下ろす。足の重みを使うと、上半身が自然に起きてきます
- 下側の肘、次に手のひらでベッドを押して、上半身を起こす。腹筋ではなく腕で押し上げます
- 座った状態でひと呼吸おく。すぐ立たず、めまいがないか確かめてから立ち上がります
「横を向く → 足を下ろす → 腕で押す」の3つだけ覚えておけば大丈夫です。痛い日は、この順番を守るだけで起き上がれることがあります。
床の布団から立ち上がる——四つばいを経由する
布団派の方は、ベッドより負担が大きくなりがちです。こちらも順番があります。
- 横向きになる
- 手をついて四つばいになる
- 片膝を立てて、その膝に手を置く
- 立てた足と手で押すようにして立ち上がる
腰から曲げて一気に立つのではなく、いったん四つばいを経由するのが要点です。近くに椅子や壁があれば、手を置く場所として使ってください。
赤ちゃんを抱き上げる・下ろす——腰ではなく足を使う
1日で何十回も繰り返す動作なので、ここが変わると効果が大きいところです。
- 赤ちゃんの真横まで足を運ぶ。離れた位置から手だけ伸ばすと、腰が前に折れてしまいます
- 腰を曲げるのではなく、膝を曲げてしゃがむ。背中はまっすぐのまま下ろすイメージです
- 赤ちゃんを自分の体に引き寄せてから持ち上げる。体から離れた位置で持つほど腰への負担は増えます
- 持ち上げながら体をひねらない。向きを変えたいときは、抱き上げてから足を踏みかえます
- おむつ替えを床ではなく、腰の高さの台やベッドの上で行う
- ベビーベッドの床板の高さを上げる(下げたままになっていないか確認)
- 抱き上げるときは、いったん自分がベッドや椅子に座ってから受け取る
「気をつける」より「高さを変える」ほうが確実です。
どうしても抱っこができない日の逃がし方
痛みが強くて抱き上げられない日は、我慢して抱くより、その日を乗り切る方法に切り替えてください。
- 床に座って、膝の上に迎え入れる——立って抱き上げる動作をなくします
- 横向きに寝たまま授乳する——座位で背中を丸め続けるより腰は楽です。ただし眠り込まないよう注意してください
- 抱っこひもを、立ったまま装着しない——座った状態で装着し、ゆっくり立ち上がります
- 家族がいる時間帯に、抱っこが必要なことをまとめる——沐浴やお出かけの準備をその時間に寄せます
ちなみ(元看護師)
腰を痛めているのはこの動作——授乳・抱っこ・寝る姿勢
前のセクションが「痛い日をしのぐ」話なら、ここはそもそも痛みを積み上げないための話です。1回あたりはささいでも、回数が多いぶん効いてきます。
授乳——赤ちゃんに合わせて背中を丸めない
授乳の姿勢でいちばん多いのが、赤ちゃんを覗き込むように背中を丸めて、そのまま10分20分固まるという形です。1日に8回も10回もこれを繰り返せば、腰も背中も痛くなります。
考え方はシンプルで、自分が赤ちゃんに近づくのではなく、赤ちゃんを自分の高さまで上げることです。
- クッションや授乳枕、丸めたバスタオルで赤ちゃんの高さを上げる
- 背もたれに背中をつけて座る。浅く腰かけて背中が丸まるのを防ぎます
- 足が床に届かないときは、足元に台や本を置く。足がぶらつくと骨盤が後ろに倒れ、背中が丸まります
- 夜間は横向きに寝たままの授乳も選択肢にする
抱っこひも——位置が下がっていないか
抱っこひもは、赤ちゃんの位置が下がるほど腰の負担が増えます。ベルトがゆるんで赤ちゃんが下がっていないか、腰ベルトが骨盤の上にきちんとかかっているかを確認してください。長時間の抱っこが続く日は、途中で下ろす時間を意識してつくります。
おむつ替え・沐浴——中腰の時間を減らす
床でのおむつ替えは、1回30秒でも回数が多く、しかも中腰です。腰の高さの台が使えるなら、そちらへ移すだけで負担は減ります。沐浴も、床に置いたベビーバスの前で前かがみを続けるより、シンクや台の上に置ける環境を探してみてください。
寝る姿勢——仰向けで腰が痛いとき
「仰向けで寝ると腰が痛い」というのも、産後によくある訴えです。反り腰の状態で仰向けになると、腰と敷布団のあいだにすき間ができて、腰の一点で体を支えることになるためです。
- 仰向けなら、膝の下にクッションや丸めたタオルを入れる——膝が軽く曲がると腰のそりがゆるみます
- 横向きなら、膝のあいだにクッションをはさむ——上の脚が前に落ちて骨盤がねじれるのを防げます
- うつぶせは避ける——腰のそりが強くなります
寝返りのときは、上半身だけひねらず、膝を立ててから体ごと向きを変えると響きにくくなります。
妊婦さんが寝れない原因6つと今夜から試せる対処法——元看護師ちなみが時期別に解説

安静にすべき?動いたほうがいい?——温める・冷やすも含めて
「痛いんだから安静に」と思うのが自然です。ただ、腰痛についてはここが少し違います。
動かなさすぎが、痛みを長引かせる
日本整形外科学会は、腰痛について放置や自己管理は禁物としたうえで、中腰にならないなど日常的な姿勢に注意しながら、腰の支持性を高める運動や体操を継続することを挙げています。痛いから動かない、動かないから支える力がさらに落ちる、という悪循環を断つという考え方です。
つまり、産後の腰痛でめざすのは「完全に安静」ではなく、腰に悪い動きを減らしながら、支える力を戻していくという方向になります。
産後、いつから体を動かしていい?
ここは自己判断で決めないでください。産後の体は、子宮や骨盤内の状態が回復していく途中です。1か月健診で「運動を始めていいか」を確認するのがいちばん確実で、帝王切開だった方、出血が続いている方、傷の治りが遅い方は、なおさら確認が必要です。
逆に言えば、健診まで何もできないわけではありません。次に書くような、寝たまま・座ったままできる範囲のものから始められます。
産褥期とは?いつまで続く?体の変化・過ごし方・働ける時期まで元看護師がまるごと解説
寝たまま・座ったままできる範囲から
赤ちゃんのそばを離れられなくてもできるものにしぼります。痛みが強くなる動きは、その時点でやめてください。
- 寝たまま、膝を立てて左右にゆっくり倒す——腰まわりをゆるめる動きです。反動をつけず、痛くない範囲で
- 寝たまま、片膝ずつ胸のほうへゆっくり引き寄せる——両膝を一度に抱えると腰に力が入るので、片方ずつ
- 四つばいで、背中をゆっくり丸めて、ゆっくり戻す——そらしすぎないのがコツです
- 座ったまま、骨盤を前後にゆっくり傾ける——授乳の合間にできます
- 骨盤底筋を締めて、ゆるめる——尿をがまんするときのように締め、数秒でゆるめる。座ったままでも寝たままでもできます
反り腰は「治す」より「戻す時間をつくる」
反り腰そのものを短期間で作り変えることはできません。現実的なのは、1日のうちに反りをゆるめる時間をつくることです。上に書いた膝を立てて寝る姿勢や、骨盤を後ろに傾ける動きは、そのための時間になります。立ちっぱなしが続く日は、片足を低い台にのせると反りがゆるみます。
温めるか、冷やすか
迷ったときの目安はこうです。
- 「重い」「だるい」「動き出しがつらい」タイプ——温めると楽になることが多いです。入浴、蒸しタオル、温感タイプの貼り薬など
- ぶつけた・ひねった直後で、熱をもって腫れている——このときは冷やします
- 温めて悪化するなら、その日は温めない——体の反応が答えです
産後の腰痛の多くは前者です。ゆっくり湯船につかる時間が取れなくても、シャワーを腰に当てる、レンジで温めたタオルを腰に置く、といった短時間のものでかまいません。
授乳中に痛み止めや湿布は使える?
「授乳中だから薬は全部だめ」と思い込んで、痛みに耐えている方がとても多いところです。ここは正確に書きます。
飲み薬——授乳中に使えると考えられている薬はあります
国立成育医療研究センターは「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧を公開しています。解熱鎮痛薬の分類には、アセトアミノフェン(カロナール)、イブプロフェン(ブルフェン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)が掲載されています。
ただし、同センターは冒頭で「お薬の使用や中止については、自己判断ではなく、必ず医師と相談して決めることが大切です」とはっきり書いています。一覧に載っているから自分で買って飲んでいい、という意味ではありません。「授乳中でも相談する価値がある」ということを知るための情報です。
参考 授乳中に安全に使用できると考えられる薬(薬効順)国立成育医療研究センター
湿布・塗り薬——「載っていない」ことを正しく受け取る
よく検索されるのが湿布です。ここは正直に書きます。上の一覧に、外用の消炎鎮痛薬(湿布・塗り薬)の記載はありません。載っていないことは「危険だと書いてある」という意味でも、「安全だと確認された」という意味でもありません。その一覧では判断できない、というだけです。
だからこそ、湿布を使いたいときは薬剤師か産院に確認するのが確実です。とくに市販の湿布には成分の違う複数のタイプがあり、妊娠中は避けるとされている成分が含まれるものもあります。産後・授乳中の使用について、自分で見分けようとしないでください。
- 「授乳中です」——いちばん重要な情報です。市販薬でも必ず伝えます
- 産後何か月か、母乳だけか混合か——判断に使われます
- ほかに飲んでいる薬・サプリ——鉄剤や産院で出た薬も含めて伝えます
そのうえで「授乳中に使えるものはどれですか」と聞けば、選んでもらえます。
「授乳をやめれば強い薬が使える」と考える前に
痛みが強いと「断乳すれば薬が飲めるのでは」と考える方がいます。けれど、その順番で決めてしまうのはもったいないと思います。まず相談してみると、授乳を続けたまま使える選択肢があることのほうが多いからです。授乳をどうするかは、痛みへの対処ができたうえで、あらためて考えても遅くありません。
母乳はいつまで?授乳をやめる時期と卒乳のサイン・体の変化を元看護師が解説
市販薬でしのぐ前に、産後健診がある
産後2週間健診・1か月健診は、腰痛を相談できるいちばん手間のかからない機会です。「腰が痛くて抱っこがつらい」と言えば、そこで対応してもらえることもありますし、必要なら適切な科を紹介してもらえます。健診は赤ちゃんのためだけの場ではありません。
骨盤ベルトは効く?いつから、いつまで
産後の腰痛とセットで語られるのが骨盤ベルトです。整理しておきます。
何をしてくれるものなのか
骨盤ベルトは、ゆるんでいる時期の骨盤まわりを外側から支えるものです。支えがあると動きやすくなり、痛みが軽く感じられる方がいます。とくに「起き上がるとき」「歩き出すとき」につらい方は、楽になったと感じやすいようです。
一方で、骨盤の形を作り変えるものでも、腰痛を根本から治すものでもありません。「支えがあるうちに、動ける範囲を広げる」ための道具と考えるのがちょうどいい位置づけです。
つけ方——位置がずれていると意味がない
よくあるのが、ウエストの位置に巻いてしまっているケースです。骨盤ベルトは腰のくびれではなく、その下、骨盤の出っぱりのあたりに水平に当てます。位置が高すぎると支えたい場所を支えられませんし、締めすぎるとかえって苦しくなります。
産院で指導を受けられるなら、それがいちばん確実です。1か月健診のときに「位置が合っているか見てほしい」と持参する方もいます。
いつまで使う?——「外せなくなる」前に
使用期間は製品や状態によって違うため、一律には決まっていません。目安として持っておきたいのは、ずっと頼り続ける道具ではないということです。支えがあることに慣れきってしまうと、自分の筋肉で支える機会が減ります。
痛みが落ち着いてきたら、まず家にいる時間だけ外してみる、というように段階的に減らしていくのが自然です。外すと痛みがぶり返す状態が長く続くなら、それは相談すべきサインだと考えてください。

何科に行けばいい?——産婦人科・整形外科・整骨院の使い分け
「産後の腰痛って、そもそもどこに行けばいいの?」——これも非常によく検索されています。ハードルの低い順に整理します。
まずは産後健診・産婦人科で言う
産後2週間健診・1か月健診があるなら、そこがいちばん手間がかかりません。産後の体の回復状況を知っている相手なので、話が早く、必要なら適切な科につないでもらえます。
健診が終わっていても、産後まもない時期に体の不調が続くなら、まず産院に電話して相談してかまいません。「これくらいで連絡していいのか」と迷う内容ほど、電話で聞いてしまったほうが早いです。
整形外科を選ぶとき
次のようなときは、整形外科が向いています。
- 足のしびれや、力が入らない感じがある
- 安静にしていても痛みが軽くならない、だんだん悪化している
- 痛みが数か月続いていて、生活に支障が出ている
- 転んだ・ぶつけたなど、はっきりしたきっかけがある
日本整形外科学会は、安静にしていても軽くならない・しだいに悪化する・発熱している・下肢がしびれたり力が入らない・尿もれがあるといった症状をともなう腰痛について、速やかに整形外科を受診するよう促しています。産後だからと自己判断で様子を見続けないでください。
なお、腰の痛みに加えてお尻から太もも、ふくらはぎへ広がる痛みやしびれがある場合は、椎間板ヘルニアなど神経が関係する状態が隠れていることがあります。
参考 腰椎椎間板ヘルニア|症状・病気をしらべる日本整形外科学会
整骨院・整体・「産後骨盤矯正」をどう考えるか
広告でよく見かけるので、いちばん先に思い浮かぶ方も多いと思います。中立に書きます。
- まず医療機関で、隠れた原因がないかを確認しておく——これがいちばん大事です。原因がわからないまま施術を重ねると、必要な受診が遅れます
- 「◯回で骨盤が締まる」といった説明は、根拠を確かめる——形が変わることをうたうものと、痛みを楽にすることを目的にするものは別の話です
- 産後いつから受けていいかは、産院に確認する——体の回復状況を知っているのは産院です
- 受けたあとに痛みやしびれが増したら続けない——その場でやめて、医療機関に相談してください
楽になったと感じる方がいるのは事実ですし、それを否定するつもりはありません。ただ順番として、原因の確認が先だという点だけは押さえておいてください。
腰ではなく、脚の付け根の真ん中(恥骨のあたり)が痛む場合は、原因も対処も変わります。恥骨結合という関節に起きている変化なので、こちらの記事を参照してください。
産後の恥骨痛はいつまで続く?歩けないほど痛い原因と恥骨結合離開の見分け方を元看護師が解説
赤ちゃんを連れて行けるか問題
受診をあきらめる最大の理由がこれです。実際にできることを挙げます。
- 予約時に「生後◯か月の子を連れて行ってよいか」を電話で確認する。ベビーカーで入れるか、待合で待てるかも同時に聞けます
- 空いている時間帯(午前の遅い時間、平日午後など)を聞いて、そこに合わせる
- 家族が休める日に合わせて予約を取る。「自分のための受診」を予定として先に押さえてしまうのがコツです
- 自治体の産後ケア事業や一時預かりを、受診のために使う
産後うつとは?症状・いつまで続くか・マタニティブルーズとの違いを元看護師が解説
見逃したくない受診のサイン
産後の腰痛の多くは、ここまで書いてきた体の変化で説明がつきます。ただし、腰の痛みという同じ形で出てくる、別の原因もあります。次のサインがあるときは、様子を見ずに連絡してください。
- 足のしびれ・足に力が入らない・つまずくようになった
- 尿がもれる、尿が出にくい、便のコントロールがきかない
- 安静にしていても痛みが軽くならない/だんだん強くなる
- 発熱をともなう腰の痛み——腎盂腎炎など感染が背景にあることがあります
- 片側の背中〜わき腹の強い痛み、排尿時の痛み、悪臭のある尿
- ふくらはぎの片側だけの痛み・腫れ・熱感、息苦しさや胸の痛み——血のかたまりに関係するサインです。ためらわず連絡してください
- 大量の出血、悪露のにおいの変化、強い下腹部痛をともなう腰痛
- くしゃみや寝返りだけで激痛が走る、身長が縮んだ感じがする——まれですが、産後・授乳期に骨がもろくなって背骨が折れることがあります
とくに発熱をともなう腰痛とふくらはぎの片側だけの症状は、産後に見逃したくないものです。産褥期は体の回復が進む時期であると同時に、こうした変化にも注意が必要な時期にあたります。
悪露(おろ)とは?いつまで続く・色や量の変化・受診の目安を元看護師が解説
ひとりで抱えないために——産後ケア事業という選択肢
腰痛の話をしていると、最後は必ずここに行き着きます。休めないことが、いちばん治りを遅くしているからです。
こども家庭庁は、産後のお母さんと赤ちゃんを支える仕組みとして産後ケア事業を位置づけています。市区町村が実施していて、宿泊型・日帰り型・訪問型といった形があり、体を休めることや育児の相談に使えます。「産後うつでなければ使えない」「よほどのことがないと使えない」ものではありません。
参考 母子保健(産前・産後サポート事業/産後ケア事業)こども家庭庁
腰が痛くて抱っこがつらい、というのは立派な相談理由です。自治体の窓口や保健センターに「産後ケアを使いたい」と伝えれば、利用できる形を教えてもらえます。
- 自治体の産後ケア事業——休息・育児相談。費用の補助があります
- 一時預かり・ファミリーサポート——受診や休息のために使えます
- 家族との分担——「抱っこと沐浴を代わってほしい」と動作を名指しで頼むほうが伝わります
- 家事の外注や宅配——買い物袋を持つ・かがんで洗濯物を拾う動作を減らせます
ちなみ(元看護師)
マタニティブルーとは?妊娠中と産後の違い・いつまで続くか・乗り越え方を元看護師が解説
ちなみから|痛みの強さは、がんばりの量では決まりません
産後の腰痛について検索していると、「抱き方が悪い」「姿勢が悪い」「体幹が弱いから」といった言葉に行き当たります。読んでいるうちに、自分のせいだと思えてきてしまうかもしれません。
でも、ここまで見てきたとおり、産後の腰は靭帯がゆるみ、支える筋肉が弱り、姿勢のクセが残った状態で、1日に何十回も中腰を繰り返しているのです。痛くなる条件がそろっています。あなたの努力が足りなかったからではありません。
私自身、上の子のときに腰を痛めて、抱き上げるたびに息を止めていた時期がありました。あのとき何がいちばん効いたかというと、実は特別なストレッチではなく、おむつ替えを床からベッドの上に変えたことと、抱っこを1日何回か家族に代わってもらったことでした。地味ですが、効きます。
もうひとつ伝えたいのは、痛みは我慢の量で消えないということです。「これくらいで受診するのは大げさ」と思う気持ちはよくわかりますが、腰痛は生活のすべてに関わります。健診で一言、産院に電話で一言。それだけで変わることがあります。
まとめ|産後の腰痛は、体の条件がそろって起きています
- 産後の腰痛は、靭帯のゆるみ・反り腰のクセ・筋力の低下に、1日何十回もの前かがみが重なって起こる。帝王切開でも起こる
- 無痛分娩の麻酔が原因ではない。日本産科麻酔学会は、腰痛は硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらい起こると報告されていると説明している
- 「いつまで」に一律の答えはないが、産後1か月ごろに表面化し、2〜3か月で山を越える方が多い。半年以上続くなら一度確認を
- 起き上がるときは横向き → 足を下ろす → 腕で押す。抱き上げるときはそばまで行く → 膝を曲げる → 体に引き寄せる → ひねらない
- いちばん効くのは高さを変えること。おむつ替えを床から台へ、授乳は赤ちゃんを自分の高さまで上げる
- 完全な安静ではなく悪い動きを減らしながら動く。運動の開始時期は1か月健診で確認する
- 授乳中でも相談すれば使える痛み止めはある。湿布などの外用薬は自己判断せず薬剤師に「授乳中です」と伝えて選ぶ
- 骨盤ベルトは支える道具であって治す道具ではない。位置は腰ではなく骨盤の高さ。ずっと頼り続けない
- 受診はまず産後健診・産婦人科。しびれ・脱力・悪化・発熱があれば整形外科へ。整体より先に原因の確認を
- 発熱をともなう腰痛、ふくらはぎの片側だけの痛みや腫れは様子を見ない
- 休めないことが治りを遅くする。産後ケア事業は使っていい制度
産後の腰痛は、赤ちゃんとの生活のいちばん最初の時期に重なる、やっかいな痛みです。けれど、原因がわかれば手の打ちどころもわかります。今日から変えられるのは、起き上がり方と、抱き上げ方と、高さです。そして、痛みが続くなら相談していい——このことだけは覚えて帰ってください。
よくある質問(産後の腰痛|FAQ)
Q産後の腰痛はいつまで続きますか?
A.一律の目安はありませんが、産後1か月ごろに動く量が増えて痛みがはっきりしてきて、2〜3か月ごろに楽になったと感じる方が多い傾向があります。ゆるんだ靭帯が戻り、支える筋力が回復してくる時期にあたるためです。ただし赤ちゃんの体重は増えていくので、抱っこや授乳の姿勢が変わらないままだと長引きます。半年以上続いているとき、痛みが強くなっていくときは「産後だから」で済ませず、一度受診して確認してください。
Q腰が痛くて朝ベッドから起き上がれません。どうすればいいですか?
A.仰向けのまま腹筋の力で起きようとすると、腰にいちばん負担がかかります。まず体を横向きにし(肩と腰と膝をひとかたまりで転がすイメージです)、両膝を曲げてベッドの端から足を下ろし、下側の肘、次に手のひらでベッドを押して上半身を起こしてください。腰をひねらず、腕で押すのがポイントです。布団の場合は、横向きになってから四つばいを経由し、片膝を立てて立ち上がります。
Q無痛分娩の麻酔をしたせいで腰痛になったのでしょうか?
A.その可能性は低いと考えられています。日本産科麻酔学会は、妊娠中から産後の腰痛の多くは、妊娠にともなって背中の靭帯がやわらかくなり、大きくなった子宮の重みで背骨への負担が増えることで起こると説明したうえで、腰痛は硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されているとしています。ただし針を刺した場所そのものの痛みが長く続く、その部分が赤く腫れる、熱が出るといったときは、麻酔を受けた施設に連絡してください。
Q授乳中でも痛み止めや湿布は使えますか?
A.国立成育医療研究センターの「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧には、解熱鎮痛薬としてアセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンが掲載されています。ただし同センターは、薬の使用や中止は自己判断ではなく必ず医師と相談して決めるよう明記しています。また、この一覧に湿布などの外用の消炎鎮痛薬の記載はありません。市販の湿布は成分の違う複数のタイプがあるため、自分で見分けようとせず、薬剤師に「授乳中です」と伝えて選んでもらってください。
Q骨盤ベルトはいつからいつまで使えばいいですか?
A.製品や体の状態によって違うため一律には決まっていません。位置は腰のくびれではなく、その下の骨盤の高さに水平に当てます。ウエストの位置に巻いてしまうと支えたい部分を支えられません。使用期間の考え方としては、痛みが落ち着いてきたら家にいる時間だけ外すというように段階的に減らしていくのが自然です。外すたびに痛みが強く戻る状態が長く続くなら、相談したほうがいいサインです。帝王切開の傷とベルトの位置が重なるときは無理に使わず産院に確認してください。
Q産後の腰痛は整形外科と産婦人科のどちらを受診すればいいですか?
A.産後まもない時期であれば、まず産後健診や産婦人科で相談するのがいちばん手間がかかりません。体の回復状況を知っている相手なので話が早く、必要なら適切な科を紹介してもらえます。一方、足のしびれや力が入らない感じがある、安静にしていても軽くならない、だんだん悪化している、痛みが数か月続いているといった場合は整形外科が向いています。日本整形外科学会も、これらの症状をともなう腰痛は速やかに整形外科を受診するよう促しています。
Q整骨院や整体の「産後骨盤矯正」に行ってもいいですか?
A.行くこと自体を否定するものではありませんが、順番が大切です。まず医療機関で、隠れた原因がないかを確認しておいてください。原因がわからないまま施術を重ねると、必要な受診が遅れることがあります。産後いつから受けていいかは産院に確認し、「何回で骨盤が締まる」といった説明については根拠を確かめてください。受けたあとに痛みやしびれが強くなったときは続けず、医療機関に相談してください。
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