妊娠中の股関節痛——超初期から後期まで原因・時期別の特徴・対処法を元看護師が解説

妊娠中の女性が股関節・骨盤まわりの痛みを感じているシーン

「股関節が急にズキズキ痛む」「夜中に寝返りを打つたびに痛みで目が覚める」「右だけ(左だけ)股関節が痛いのはなぜ?」——妊娠中の股関節痛に悩んでいませんか?

妊娠中は子宮の拡大やホルモンの変化によって骨盤まわりの靭帯が緩み、股関節痛が起きやすくなります。特に後期になると「外れそうな感覚」「片方だけ痛い」という方が増え、歩くのがつらくなることもあります。また妊娠超初期や初期から股関節が痛い方の中には「これって流産のサイン?」と不安になる方もいます。

私自身も2回の妊娠でどちらも股関節のだるさや痛みを経験しました。特に後期は寝返りのたびに骨盤まわりが痛み、抱き枕なしでは眠れなかった記憶があります。看護師として多くの妊婦さんから「股関節が痛くて歩けない」「夜に特に痛くなる」という相談を受けてきた経験もあります。

この記事では、妊娠中の股関節痛がなぜ起こるのか・時期別の特徴・自宅でできる対処法・産院に相談するタイミングまで、元看護師の視点からわかりやすくまとめました。

ちなみ(元看護師)

股関節痛は妊婦さんにとても多い症状です。原因と対処法を知っておくことで、少しでも楽に過ごせるようになりますよ。

妊娠中に股関節が痛む主な原因

妊娠中の股関節痛には「リラキシンによる靭帯の弛緩」「子宮の拡大と重心の変化」「胎児の位置による圧迫」という3つの原因が絡み合っています。

原因① リラキシンによる靭帯の弛緩

妊娠すると「リラキシン(relaxin)」というホルモンが分泌され始めます。リラキシンは骨盤の靭帯をやわらかくして、出産時に赤ちゃんが産道を通りやすくするために必要なホルモンです。このリラキシンの働きで骨盤の靭帯が緩むと、仙腸関節(骨盤後部)や恥骨結合(骨盤前部)だけでなく、股関節周辺の安定性も低下します。これが「股関節がぐらつく感じ」「外れそうな感覚」「動かすたびに痛む」という症状の根本的な原因です。

リラキシンの分泌は妊娠初期(特に妊娠10週前後)にピークを迎え、その後は徐々に落ち着きますが、産後まで分泌が続きます。このため「まだお腹が目立たない妊娠超初期から股関節が痛い」という場合はリラキシンの影響が考えられます。靭帯が緩んだ状態は産後も数か月続くことがあるため、産後の骨盤ケアも大切です。

原因② 子宮の拡大と重心の前方移動

妊娠中期〜後期にかけて子宮が急速に大きくなると、体の重心が前方に移動します。重心がずれると、それを補おうとして骨盤が前傾し(前に傾き)、腰椎の反りが強くなります。この姿勢の変化が股関節まわりの筋肉・靭帯に余分な負担をかけ、痛みが生じやすくなります。

特に立っているときや歩行中は、片足に体重をかける瞬間が繰り返されるため股関節への負担がさらに大きくなります。「歩くと股関節が痛む」「長時間立っていると股関節がだるくなる」という方は、この重心変化が主な原因のことが多いです。

原因③ 胎児の位置による骨盤・股関節への圧迫

妊娠後期になると赤ちゃんが頭を下にした体位(頭位)をとり始め、骨盤の中へ降りてきます。このとき赤ちゃんの頭や体が仙骨(骨盤後方の骨)や坐骨周辺を圧迫することがあります。股関節に近い坐骨神経が圧迫されると、股関節周辺から太もも・ふくらはぎにかけてのだるさや痛みが出ることがあります。

また赤ちゃんの向きによって右側または左側への圧迫が偏ることがあり、「右の股関節だけ痛い」「左ばかり痛む」という片側の痛みの一因になることがあります。赤ちゃんが体位を変えると痛む側が変わることもあります。

時期別の股関節痛の特徴

妊娠超初期・初期(〜15週)——股関節痛と流産の関係は?

「妊娠超初期や初期に股関節が痛いのは流産のサイン?」という不安をお持ちの方は多いです。結論から言うと、股関節痛だけで流産のリスクを判断することはできません。

妊娠ごく初期からすでにリラキシンの分泌が始まるため、「妊娠に気づく前から股関節がだるい・痛い」という方も一定数います。これはリラキシンによる靭帯の弛緩という生理的な変化で、赤ちゃんへの影響もなく流産と直接結びつくものではありません。流産のサインとして医学的に挙げられているのは「大量の出血」「強い下腹部の痛み・けいれん」などであり、股関節の痛みだけが流産を示すわけではありません。

妊娠初期の股関節痛について
妊娠初期〜超初期の股関節痛はリラキシンによる生理的変化によるものがほとんどです。ただし「下腹部の強い痛み・出血・腰の強い痛み」が同時にある場合は早めに産婦人科に連絡してください。

ただし妊娠初期(特に12週以前)は流産が最も多い時期でもあります。「股関節が痛い+出血がある」「股関節が痛い+強い腹痛がある」というときは産婦人科に速やかに相談してください。

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妊娠中期(16〜27週)——立ち上がり・歩行時の痛みが増える

妊娠中期は子宮が急激に大きくなる時期です。お腹が前に出てくるにつれて重心が前方に移動し、骨盤まわりの負担が増えていきます。「座った状態から立ち上がるときに股関節が痛む」「長時間歩くと股関節がだるくなる」という症状が出やすいのがこの時期の特徴です。

中期から仙腸関節(骨盤後部・腰のやや下あたりの関節)に痛みが出る方も増えます。「骨盤の後ろ側が痛い」「股関節だけでなく腰の奥まで痛む」という場合は仙腸関節機能不全(骨盤帯痛の一種)の可能性があります。産婦人科に相談すると骨盤ベルトの使い方や体の動かし方についてアドバイスをもらえることがあります。

妊娠後期(28週〜)——「外れそう」「片方だけ痛い」が最も多い時期

股関節痛が最もつらくなるのは妊娠後期(7か月〜)です。赤ちゃんが骨盤内に降りてきて体重も最大になる時期のため、リラキシンによる靭帯の弛緩・重心変化・胎児の圧迫が重なり、股関節への負担が最大になります。

「股関節が外れそうな感じがする」という表現は後期の妊婦さんからよく聞かれます。実際に関節が脱臼しているわけではなく、靭帯の弛緩によって関節の安定性が低下しているために感じる感覚です。ほとんどの場合、出産後に靭帯の緊張が回復するにつれて自然に改善していきます。

また後期は就寝中の寝返りが股関節痛を引き起こすことが多く、「夜中に痛みで目が覚める」「左右どちらを向いても股関節が痛い」という方も増えます。不眠につながることもあるため、寝るときの体位の工夫が特に大切です。

症状別の特徴

片方(右だけ・左だけ)だけ股関節が痛い

妊娠中の股関節痛は片方だけに強く出ることがよくあります。主な原因は次のとおりです。

①赤ちゃんの向き:後期になると赤ちゃんが特定の方向を向いて定着しやすく、その重みが骨盤の片方に集中することがあります。②仙腸関節の左右差:リラキシンによる靭帯の弛緩が左右均等に起こらない場合、一方の仙腸関節が不安定になり、その側の股関節に痛みが集中することがあります。③代償的な姿勢:腰痛や恥骨痛をかばって片側に重心をかけるくせがつくと、その側だけ股関節への負担が大きくなります。

「右だけ痛い」「左だけ痛い」という状態が数日以上続く場合も、多くは上記の原因による生理的な変化です。ただし痛みが非常に強い・歩行困難を伴う・発熱がある場合は産婦人科に相談してください。

歩けないほど股関節が痛い

妊娠後期に「歩くたびに股関節がガクンと痛む」「数歩歩くのがやっと」という状態になることがあります。これは骨盤の靭帯が強く弛緩した「骨盤帯痛(PGP:Pelvic Girdle Pain)」の可能性があります。PGPは妊婦さんに一定の割合で見られ、特に後期・多胎妊娠・過去に骨盤や腰の外傷がある方に起こりやすいとされています。

歩行が困難なほどの股関節痛が続く場合は、自己対処だけで我慢せず産婦人科に相談してください。骨盤ベルトの適切な使い方の指導・理学療法(リハビリ)への紹介につながることがあります。

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夜間・就寝中に股関節の痛みが悪化する

日中より夜間(特に就寝中)に股関節痛が強くなる方は多いです。横向きに寝ると股関節に体重がかかる、寝返りのたびに靭帯・関節への負荷がかかる、日中の疲れが夜に出やすい、という要因が重なるためです。

「夜だけ痛みが強くなる」「朝方に特につらい」という場合も、妊娠中の骨盤・股関節まわりへの負荷が原因のことがほとんどです。膝と膝の間にクッションを挟む・抱き枕を使うといった体位の工夫(後述)で大きく改善することがあります。

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自宅でできる股関節痛の対処法

妊娠中の股関節痛は「靭帯のゆるみ」「姿勢の変化」が根本原因であるため完全に取り除くことは難しいですが、正しい対処法を続けることで日常生活への影響をかなり小さくできます。

① 股関節まわりのストレッチ

股関節周辺の筋肉(お尻・太ももの内側・股関節屈筋)をほぐすことで、靭帯への余分な負担を軽減できます。妊娠中は激しい運動は控え、次のような安全なストレッチから試してみてください。

お尻のストレッチ(梨状筋ほぐし):椅子に座った状態で、痛む側の足首を反対側の膝の上に置き(4の字の形)、背筋を伸ばしたまま上体をゆっくり前に傾けます。お尻の深い部分がじんわり伸びるのを感じながら、呼吸を続けて30秒キープ。左右ともに行いましょう。

四つ這いの骨盤ゆらし:手と膝をついた四つ這いの姿勢で、骨盤を左右にゆっくりゆらします。激しく動かさず、呼吸に合わせてゆったりとした動きで行うのがポイントです。お腹が大きい後期でも行いやすい体位です。

内ももストレッチ:椅子に浅めに座り、両足をゆっくり肩幅よりやや広めに開きます。膝に手を置いて背筋を伸ばしたまま上体を軽く前に傾けると、内ももがじんわり伸びます。後期はお腹の大きさに合わせて前傾を浅めにしてください。

ストレッチ中に痛みが増す場合は中止を
ストレッチ中に股関節・お腹・恥骨に強い痛みが出た場合はすぐに中止してください。お腹の張り感があるときは安静にして様子を見ましょう。

② 抱き枕・クッションを使った体位の工夫

夜間の股関節痛には、寝姿勢の工夫が最も効果的です。横向きに寝るとき、膝と膝の間にクッション(または抱き枕)を挟むと股関節の位置が安定し、骨盤への左右のねじれが減ります。これだけで夜間の痛みが大きく楽になる方が多いです。

抱き枕は前側に抱えるだけでなく、後ろ側(背中側)に置いて背もたれとして使うのも有効です。後期は仰向けが苦しくなるため左側を下にした横向きが推奨されますが、「左向きが痛い」という場合は右向きでも問題ありません。痛みの少ない方向を優先してください。

③ 骨盤ベルトの活用

骨盤ベルト(サポートベルト)は骨盤を外側からサポートすることで靭帯への負担を軽減します。特に外出時・立ち仕事が多い日に使うと楽になる方が多いです。

ただし、つけ方や位置が正しくないと逆効果になることがあります。骨盤ベルトは腰(ウエスト)ではなく骨盤(おしりの上部・大転子あたり)に巻くのが基本です。きつく締めすぎると血流が悪くなるため、「骨盤をゆるく支える」感覚で使いましょう。使い方に不安がある場合は産婦人科の助産師に確認するのが最も安心です。

④ 動作の工夫(ベッドからの起き方・歩き方・日常動作)

ベッドからの起き方:仰向けから直接起き上がると骨盤・股関節に大きな負荷がかかります。まず体を横向きに回してから、ひじで体を支えながらゆっくり起き上がる手順が股関節への負担を最小限にします。

歩き方・立ち方:大股歩きや早歩きは骨盤への負荷が大きくなります。後期は歩幅を小さくしてゆっくり歩くことを意識しましょう。長時間の立ち仕事が必要な場合は片足をやや高い台に乗せると骨盤への負荷が分散されます。

片足立ちを避ける:着替えや靴下・靴を履くときに片足立ちになると骨盤の片側に全体重がかかり、股関節痛が悪化しやすいです。椅子や壁に手をついて安定した状態で動作するようにしてください。

ちなみ(元看護師)

私は後期に靴下を履くのが地獄でした。椅子に座ったまま両手で足を引き寄せて履くようにしてからかなり楽になりました。小さな工夫の積み重ねで、痛みの感じ方がずいぶん違います。

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こんな股関節痛は産院に相談を——受診のサイン

妊娠中の股関節痛のほとんどはリラキシンによる生理的変化や姿勢の変化が原因で、出産後に自然に改善します。しかし以下のような場合は自己対処だけで様子を見ず、産婦人科または整形外科に相談してください。

歩行が困難なほどの痛みが数日以上続く:数歩歩くだけで激しく痛む状態が続く場合は、骨盤帯痛(PGP)として骨盤ベルトの処方や理学療法(リハビリ)が必要なことがあります。

股関節から足にかけて強いしびれ・感覚麻痺がある:坐骨神経への強い圧迫が起きている可能性があります。しびれが広範囲・持続する場合は産婦人科に相談しましょう。

発熱を伴う股関節の痛み:発熱+関節痛は感染症(化膿性関節炎など)の可能性があり、妊娠中は特に注意が必要です。この場合はすぐに産婦人科または救急を受診してください。

転倒などの外傷後から急激に悪化した:転んだ・ぶつけた後から股関節の痛みが急激に悪化した場合は、骨折や関節の損傷を除外するための受診が必要です。

片側の下肢が赤く腫れて熱感がある+股関節痛:まれですが深部静脈血栓症(DVT)の可能性もあるため、このような症状が出た場合は早急に受診してください。

以下の症状があれば産院に連絡を
  • 歩行が困難なほどの強い股関節痛が数日以上続く
  • 股関節から足にかけて強いしびれ・感覚の麻痺がある
  • 発熱を伴う股関節の痛み
  • 転倒・外傷後から急激に悪化した股関節痛
  • 片側の下肢が赤く腫れて熱感がある

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まとめ

妊娠中の股関節痛は、リラキシンによる骨盤靭帯の弛緩・子宮の拡大による重心変化・胎児の位置による圧迫が重なって起こります。超初期からすでにリラキシンの影響が出るため「お腹が大きくないのに股関節が痛い」という方も多く、これは生理的な変化です。後期になると「外れそうな感覚」「片方だけ痛い」「歩けないほど痛い」という状態になることもありますが、ストレッチ・体位の工夫・骨盤ベルトの活用・動作の見直しで日常生活への影響を和らげることができます。

この記事のポイントまとめ
  • 主な原因:リラキシンによる靭帯弛緩・子宮拡大による重心変化・胎児の位置による圧迫
  • 超初期・初期の股関節痛と流産:股関節痛だけで流産リスクを判断できない。出血・強い腹痛を伴う場合は産婦人科へ
  • 後期の特徴:「外れそう」「片方だけ」「夜間悪化」が多い。骨盤帯痛(PGP)の可能性も
  • 対処法:お尻のストレッチ・膝間クッション・骨盤ベルト・ベッドからの起き方・片足立ちを避ける
  • 受診のサイン:歩行困難が続く・強いしびれ・発熱を伴う痛み・転倒後の急激な悪化

「痛くて眠れない」「仕事中も股関節が気になってつらい」という状態が続いているなら、一人で抱え込まず産婦人科の助産師や医師に相談してください。骨盤ベルトの処方や体の動かし方のアドバイスをもらえることがあります。赤ちゃんに会えるその日まで、できる工夫をしながら乗り越えていきましょう。

よくある質問

Q妊娠超初期に股関節が痛いのは妊娠のサインですか?

A.妊娠ごく初期からリラキシンの分泌が始まるため、股関節のだるさや痛みを妊娠超初期に感じる方もいます。ただし股関節痛だけで妊娠を確認することはできません。妊娠の確認には妊娠検査薬・産婦人科の受診が必要です。また、股関節痛は妊娠以外でも起こるため、あくまで参考程度に捉えてください。

Q妊娠中の股関節痛はいつまで続きますか?

A.多くの場合、出産後にリラキシンの分泌が落ち着き靭帯の緊張が回復するにつれて自然に改善します。産後数週間〜数か月で痛みがなくなる方がほとんどです。ただし産後も骨盤が不安定な状態が続くことがあるため、産後の骨盤ケア(骨盤ベルト・産後の体操)も大切です。

Q骨盤ベルトはいつから使えばよいですか?

A.股関節痛・骨盤の不安定感が気になり始めた時期から使うことができます。時期より『正しい位置に巻けているか』が重要です。腰(ウエスト)ではなく骨盤(おしりの上・大転子あたり)に巻くのが基本です。使い方に不安がある場合は産婦人科の助産師に確認してもらうと安心です。

Q股関節痛と恥骨痛の違いは何ですか?

A.股関節痛は骨盤の横〜外側(太ももの付け根あたり)の痛みが中心です。一方、恥骨痛は骨盤の前方中央(恥骨・股の間のやや上あたり)の痛みで、歩くたびにズキッとする・ベッドでの寝返りや開脚動作で特に痛むのが特徴です。どちらもリラキシンによる靭帯弛緩が原因で起こりやすく、同時に両方の痛みがある方も少なくありません。

股関節痛と坐骨神経痛は骨盤まわりの隣接した症状で、同時に起きることも少なくありません。妊娠中の股関節痛についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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