妊娠してから、突然心臓がドキドキして「これって大丈夫?」と不安になったことはありませんか。ちょっと立ち上がっただけで脈が速くなる、食後にドキドキが強くなる、夜も動悸が気になって眠れない——。そんな経験をしながらも、「赤ちゃんは大丈夫かな」と心配している方は多いと思います。
私自身、妊娠初期に突然心臓がドキドキして怖い思いをしたことがあります。立ち上がっただけで脈が速くなる感じがして、「心臓に何か問題があるのでは」と心配しました。でも、なぜ動悸が起きるのかを理解してからは、ずいぶん気持ちが楽になりました。原因がわかると、ずっと向き合いやすくなりますよね。
妊娠中の動悸は、ほとんどの場合、妊娠による体の自然な変化によるものです。ただ、なかには早めに受診したほうがよいサインもあります。この記事では、動悸が起きる理由・超初期から後期までの時期別の特徴・食後の動悸の対処法・危険な動悸との見分け方・受診の目安まで、元看護師のちなみが、あなたの不安に寄り添いながら解説します。
ちなみ(元看護師)
妊娠中に動悸が起きやすい理由
「妊娠したら急に動悸が増えた」という方は少なくありません。妊娠中の動悸には複数の背景があり、ひとつだけでなく、いくつかの要因が重なって起こることもあります。まずは「なぜ起きるのか」を知っておくと、必要以上に怖がらずに向き合いやすくなります。
心拍数が妊娠前より増加する——心臓への負担がどう変わるか
妊娠すると、赤ちゃんへ酸素と栄養を届けるために、お母さんの血液量が大きく増えていきます。妊娠中の血液量は非妊娠時の約1.4〜1.5倍にまで増えると言われており、この増えた血液を全身に送るために、心臓は妊娠前より多くの仕事をしなければなりません。
その結果、妊娠中は心拍数が自然と増えやすくなります。個人差はありますが、妊娠前よりも1分間に10〜20回程度、心拍数が増加するとも言われており、特に動いたときや体に負荷がかかったときに、脈の速さをはっきりと感じることがあります。「ちょっと動いただけで心臓がドキドキする」という感覚は、こうした心臓の変化が背景にあることが多いです。
このこと自体は、赤ちゃんを守るための正常な体の反応です。ただ、慣れない心臓の変化を「動悸」として不快に感じる方も多く、特に妊娠初期は体の変化が急なため、敏感に感じやすいと言われています。
hCGとプロゲステロンが自律神経に与える影響
妊娠初期に急増するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と、妊娠全期にわたって高い水準が続くプロゲステロン(黄体ホルモン)は、どちらも自律神経のバランスに影響を与えることが知られています。
プロゲステロンには血管を広げる(拡張させる)働きがあり、血管が広がると全身の血圧が下がりやすくなります。血圧が下がると、体はそれを補おうとして心拍数を増やすため、動悸として感じることがあります。また、自律神経(交感神経と副交感神経のバランスを調整する神経系)が乱れると、安静にしているときでもドキドキ感が出やすくなります。
「横になっているのに脈が速い気がする」「何もしていないのに急にドキドキする」という場合、ホルモンの変化による自律神経の乱れが関係していることもあります。これは妊娠中特有の反応であり、多くは妊娠の経過とともに体が慣れていくと言われています。
貧血性頻脈——鉄欠乏性貧血が動悸の主な原因になるとき
妊娠中の動悸の原因として、看護師時代から特によく見かけたのが鉄欠乏性貧血によるものでした。妊娠中は赤ちゃんに鉄分が優先的に使われるため、お母さんは鉄欠乏性貧血になりやすい時期です。特に妊娠中期から後期にかけて、貧血が進みやすくなります。
鉄欠乏性貧血があると、血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)が減り、全身に運べる酸素の量が少なくなります。それを補うために心臓がより速く拍動しようとするのが「貧血性頻脈」です。「階段を上るとすぐに息が切れてドキドキする」「ちょっと動いただけで疲れる」という場合、貧血が背景にある可能性があります。
貧血は妊婦健診の血液検査で確認できます。動悸に加えてだるさ・疲れやすさ・顔色の悪さが気になるときは、健診のときに必ず相談しましょう。鉄分のとり方や貧血の詳しい対策は、こちらの記事にまとめています。
妊娠中の貧血はなぜ起こる?症状・治療・食事対策を元看護師ちなみが解説
低血圧・起立性低血圧と動悸の関係
妊娠中は血管が広がりやすく、また大きくなった子宮が静脈を圧迫することもあり、もともと血圧が低めになりやすい体になります。低血圧の状態では、体は血流を維持しようとして心拍数を上げるため、動悸が起こりやすくなります。
特に、急に立ち上がったときに一時的に脳への血流が減る「起立性低血圧」では、目の前が暗くなる感じやふらつきとともに、心臓がドキドキする動悸を感じることがあります。「しゃがんでいた状態から急に立つとドキドキする」「長時間立っていると脈が速くなる」という方は、このパターンが関係しているかもしれません。
動悸とめまいが同時に起こる場合、貧血や低血圧が共通の背景になっていることが多いです。めまいの症状についてはこちらの記事もあわせて参考にしてください。
妊娠中のめまいはなぜ起きる?タイプ別の原因・対処法・仕事の休み方を元看護師が解説
はじめて動悸を感じたとき
私が妊娠初期にはじめて動悸を感じたのは、朝起きてキッチンに立ったときでした。何もしていないのに急に心臓がドキドキして、「あれ?」と思って胸に手を当てた記憶があります。脈が速くなっている感覚があって、ちょっと不安になりました。
でも健診で助産師さんに話したら、「妊娠初期は血液量がぐんと増えるから、心臓が忙しくなってドキドキしやすいんですよ」と教えてもらって、納得できてからは少し気持ちが落ち着きました。原因がわかると、ずっと向き合いやすくなりますよね。あなたも、まずは「なぜ起きるのか」を知ることで、少しでも安心感につながれば嬉しいです。
妊娠超初期の動悸——「妊娠のサイン?」という不安に答える
「生理予定日前後から動悸がある。妊娠しているのかな?」と気になって検索される方も多いと思います。ここでは、妊娠超初期の動悸について、できるだけ中立的にお伝えします。
超初期に動悸が出る理由(hCG急増と自律神経)
妊娠が成立すると、受精卵を守るためにhCGというホルモンが急速に分泌され始めます。hCGはプロゲステロンの産生を促し、これが自律神経に影響を与えます。また、受精後から胎盤が形成されるにつれて、体は赤ちゃんへの血流を準備し始めるため、循環する血液量が徐々に増えていきます。
こうした体の変化が、妊娠超初期(生理予定日前後)から動悸として感じられることがあります。「なんとなく脈が速い気がする」「ドキドキして眠れない」という感覚は、hCG急増と自律神経の変化が背景になっていることが多いと言われています。いつから動悸が始まるかには個人差があり、気づかない方もいれば、超初期から敏感に感じる方もいます。
「動悸があれば妊娠」とは断定できない理由
結論からお伝えすると、動悸があるかどうかだけで、妊娠しているかどうかを判断することはできません。動悸は妊娠以外にもさまざまな原因で起こります。疲れや睡眠不足、カフェインの摂りすぎ、ストレス、低血圧、貧血、自律神経の乱れなど、日常的な要因でも動悸は出やすくなるからです。
また、生理前(PMS)の時期もプロゲステロンが高くなるため、妊娠超初期と似たような症状(動悸・だるさ・胸の張り)が出ることがあります。「動悸がある=妊娠している」とは言えませんし、「動悸がない=妊娠していない」とも言えません。症状だけで一喜一憂してしまうのは、気持ちの上でとても消耗しますので、気になるときは検査薬で確かめるのがいちばんです。
妊娠検査薬で確認するまでの過ごし方
妊娠の可能性が気になる超初期の時期は、激しい運動や過度な疲労を避け、バランスよく食事・休息をとりながら過ごしましょう。動悸がつらいときは、安静にして水を飲むなど、体に負担をかけない過ごし方を意識してください。
妊娠検査薬は、生理予定日の1週間後以降に使うと精度が上がります。陽性が出たら、早めに産婦人科を受診してください。「妊娠の可能性があるけれど確認できていない」という状態が最も不安を大きくします。まず確かめることをおすすめします。妊娠初期症状の全体像が気になる方は、こちらの記事もあわせて参考にしてみてください。
妊娠超初期症状はいつから?9つのサイン・PMSとの違い・経産婦の特徴まで|元看護師ちなみが中立解説
妊娠初期(〜15週)の動悸——しんどい・息苦しいのはなぜ?
妊娠初期は動悸を感じやすい時期のひとつです。「ちょっと動いただけでドキドキして息苦しい」「横になっていても脈が速い気がする」という声をよく聞きます。なぜ初期に動悸が出やすいのか、その背景を見ていきましょう。
初期に動悸が出やすい4つの原因
妊娠初期に動悸が出やすい主な原因は、大きく4つあります。①hCGの急増とプロゲステロンによる自律神経の変化、②血液量が急速に増えることで心臓への負担が高まること、③低血圧(ホルモンによる血管拡張)、④つわりによる脱水・栄養不足です。これらが重なることで、「ちょっとしたことでドキドキしやすい体」になっています。
初期は特にhCGが急速に増えるため、自律神経が乱れやすい時期です。「朝起きたら脈が速い」「電車に乗っていると動悸がする」など、日常のなかで動悸を感じる場面が増えることがあります。多くの方は妊娠中期に入るにつれて、体が変化に慣れて動悸が落ち着いてくることが多いと言われています。
妊娠初期から16週ごろにかけては、血液量が急速に増える反面、赤血球の増え方が血漿(血液の液体成分)ほど速くないため、血液が「薄まった」状態(生理的貧血)になりやすい時期でもあります。これも動悸の背景のひとつになります。
つわりで食事・水分がとれないときの動悸
つわりがつらくて食事も水分もほとんどとれない——そんな時期に動悸が強くなることがあります。食べられない・飲めないと、体は軽い脱水状態になり、血液が濃縮されて循環しにくくなります。また、低血糖(血糖値が下がりすぎた状態)になると、心臓が代償的に速く動こうとするため、動悸や冷や汗・ふるえが出ることがあります。
「つわりがひどい日ほど、動悸も強い気がする」という方は、このパターンが関係しているかもしれません。つわりのあいだは、少量でも口にできるもの(スポーツドリンクや経口補水液、あめ、薄味のお粥など)を少しずつとることが、動悸予防にもつながります。つわりの対処については、こちらの記事も参考にしてみてください。
つわりはいつから?ピーク・いつまで続くかと症状・対処法を元看護師ちなみが解説
「しんどい・息苦しい」と感じるときの対処法
動悸とともに「息苦しい」「しんどい」と感じるときは、まずその場で無理をせずに休むことが大切です。椅子に座る、床にしゃがむ、横になれるなら横になりましょう。動悸は安静にすることで落ち着くことが多く、数分間ゆっくり深呼吸すると楽になることがあります。
息苦しい動悸が出やすい場面(混んだ電車、暑い場所、立ちっぱなしの仕事など)をあらかじめ把握しておき、そういった場面ではできるだけ「一歩手前で休む」習慣をつけるといいでしょう。仕事中の場合は、職場のスタッフや上司に動悸が出やすいことを伝えておくと、配慮を得やすくなります。
なお、安静にしても動悸が続く、息苦しさが強い、胸の痛みをともなうといった場合は、自己判断せず産婦人科に連絡してください。具体的な対処法については後ほどの「動悸がつらいときの対処法」でもくわしくお伝えします。

妊娠中期(16〜27週)の動悸——動くと心臓がドキドキする
「安定期に入ってつわりが落ち着いたのに、動くとすぐにドキドキする」という声も多く聞かれます。妊娠中期は体調が安定しやすい時期ですが、動悸が完全になくなるとは限りません。中期ならではの背景を知っておきましょう。
中期に動悸が増える背景(循環血液量のピークと貧血)
妊娠中の血液量は中期後半〜後期前半(28〜32週ごろ)にピークを迎えると言われています。循環血液量が増えるに従って心臓の仕事量も増えるため、中期に入ってからも動悸を感じやすい方がいます。
また、中期は鉄欠乏性貧血が最も出やすい時期でもあります。赤ちゃんの成長とともに鉄の需要が増え、食事だけでは不足しやすくなるからです。貧血が進むと心臓が速く動こうとするため(貧血性頻脈)、「動くとすぐ脈が速くなる」「階段を上るとドキドキして息が切れる」という症状が出やすくなります。
中期に入ると妊婦健診での血液検査の機会も増えます。貧血の指標(ヘモグロビン値など)を確認してもらい、貧血傾向があれば早めに対策を始めることで、動悸を軽減できることがあります。
「息苦しい・動くとドキドキ」への対処
中期の息苦しい動悸には、まず「一度に動く量を減らす」ことが効果的です。家事をするときも、まとめてやろうとせず、少しやっては休む方式を取り入れましょう。安定期に入って活動的になりたい気持ちはよくわかりますが、動悸が出ている時期は無理せず体に合わせたペースで動くことが大切です。
息苦しさを感じたら、その場でいったん立ち止まり、楽な姿勢で深呼吸をしましょう。鼻からゆっくり吸って、口からゆっくり吐く腹式呼吸は、自律神経を落ち着かせる効果が期待できます。動悸中に焦って早呼吸になると逆効果なので、意識的にゆっくり呼吸することがポイントです。
中期の貧血チェックが大切な理由
妊娠中期に動悸が気になる方には、貧血が背景にないか確認することをおすすめします。貧血が原因の動悸は、鉄分補給で改善が期待できることがあるからです。ただし、鉄剤やサプリの種類・量は自己判断で決めず、必ず産科医に相談してから使いましょう。
「健診で貧血と言われた」「ヘモグロビン値が低かった」という方は、食事でできる鉄分対策についてこちらの記事も参考にしてみてください。鉄分の吸収を助ける食べ合わせや、日常で意識できる工夫をまとめています。
妊娠中の貧血はなぜ起こる?症状・治療・食事対策を元看護師ちなみが解説
妊娠後期(28週〜)の動悸——大きなお腹が心臓を圧迫する
妊娠後期になると、お腹が大きくなることで心臓や肺への物理的な圧迫が増し、動悸がより感じやすくなる方もいます。「お腹が大きくなってから、動悸と息苦しさが強くなった」という方は多く、後期特有のメカニズムを理解しておくと対処しやすくなります。
横隔膜が押し上げられ・大静脈が圧迫されるしくみ
妊娠後期に大きくなった子宮は、上方向に横隔膜(呼吸に使う筋肉)を押し上げます。横隔膜が押し上げられると肺の容量が減り、少し動いただけで息苦しくなりやすくなります。呼吸が浅くなると体内の酸素が不足しがちになり、心臓が速く動こうとするため動悸につながります。
また、子宮が大きくなると、背骨の右側を通る太い静脈「下大静脈(かだいじょうみゃく)」を圧迫することがあります。仰向けに寝たときに特に起こりやすく(仰臥位低血圧症候群)、心臓に戻る血液が減って血圧が下がり、それを補おうとして動悸が出ることがあります。「あお向けに寝るとドキドキして気分が悪くなる」という方は、このしくみが関係していることが多いです。
「おさまらない・寝れない」夜の動悸への対処
後期の夜間の動悸は、多くの妊婦さんが悩むことのひとつです。仰向けに寝ると下大静脈が圧迫されて動悸が出やすくなりますが、体を左に向けることで(左側臥位)、子宮が下大静脈から離れて血流が楽になり、動悸がおさまりやすくなります。
「寝れない」というつらさが続く場合は、まず姿勢を変えてみましょう。左側を下にした横向き姿勢で、膝の間や腹部の下に抱き枕やクッションを挟むと、姿勢が安定して楽に横向きでいられます。寝る直前に食事をするとさらに動悸が強くなることがあるため、就寝の2時間前には食事を終えることも大切です。
安静にしても動悸がおさまらない、眠れないほど続く場合は、次の健診を待たず産婦人科に相談してください。夜中に症状が強い場合は、翌朝でも早めに電話で状況を伝えることをおすすめします。
息苦しさを和らげる姿勢と寝方(左側臥位)
後期の息苦しさや動悸を和らげるために最もおすすめできる姿勢が、体の左側を下にした「左側臥位(させつがい)」です。左側を下にすると下大静脈への圧迫が減り、心臓に戻る血液量が増えて、血圧と心拍数が安定しやすくなります。夜眠るときだけでなく、日中ソファで休むときも、できるだけ左を下にした横向き姿勢を意識してみてください。
「左側が向きにくい」という方も、右側よりも左側の方が動悸や息苦しさが楽になりやすいことが多いです。どちらの向きでも動悸や息苦しさが強い場合は、上半身を少し高くして(枕を重ねるなど)半横向きの姿勢をとってみると楽になることもあります。後期の生活全般の工夫については、こちらも参考になります。
妊娠初期の過ごし方ガイド|安静度・眠れない・仕事対応を元看護師が中立解説

食後に動悸がひどくなるのはなぜ?
「食後にドキドキが強くなる」「食べ終わってしばらくすると脈が速くなる」——そんな経験はありませんか?妊娠中の食後の動悸は多くの方が経験する症状ですが、その原因を詳しく解説しているところは意外と少ないです。ここでは食後に動悸が出る仕組みから対処法まで、具体的に見ていきましょう。
消化に血流が集中するしくみ(食後低血圧)
食事をすると、消化管(胃や腸)は食べ物を消化・吸収するために大量の血液を必要とします。このとき、体は消化器系に血液を優先して送るため、他の部分への血流が一時的に減ります。これを「食後の血液再配分」と言い、健康な方でも食後は血圧がやや下がりやすくなります(食後低血圧)。
血圧が下がると、体は「血圧を戻さなければ」と感じて心拍数を上げます。これが食後の動悸につながるメカニズムです。妊娠中はもともと血管が広がりやすく血圧が低めの状態にあるため、食後の血圧低下がより顕著に出やすく、動悸を感じやすくなります。
特に炭水化物を一度にたくさん食べると、消化吸収に多くの血流が必要となるため、食後低血圧が起こりやすくなると言われています。「ご飯を食べた後にドキドキする」という方は、一度の食事量を調整してみることが助けになることがあります。
後期に特に多い理由(横隔膜圧迫×食後血流集中)
後期に食後の動悸が特に強くなりやすいのは、複数のメカニズムが重なるためです。大きくなった子宮が胃を上方向に押し上げるため、食後に胃が膨らむと横隔膜をさらに圧迫し、肺の容量が狭まって息苦しさが増します。それに加えて、消化のために大量の血流が消化管に集中することで、全身の血圧が下がりやすくなります。
さらに、仰向けや体を後ろに倒した姿勢で食事をとると、食後に子宮が下大静脈を圧迫しやすくなり、動悸がより強くなることがあります。「食後に横になるとドキドキがひどい」という方は、食後の姿勢が関係している可能性があります。
ちなみ(元看護師)
食後の動悸を和らげる食事の工夫
食後の動悸を和らげるためには、食事の量と方法を工夫することが効果的です。以下の5つを参考にしてみてください。
- 少量に分けて食べる(分食):1回の食事量を減らし、回数を増やす(3食を5〜6食に分けるなど)と、一度に消化に回る血流が減り、食後低血圧が起こりにくくなります
- ゆっくりよく噛んで食べる:早食いすると急激に消化管に血流が集中します。ゆっくり食べることで血流の変化を緩やかにできます
- 食後すぐに横にならない:食後30〜60分は上半身を起こした状態(座った姿勢)で過ごしましょう。横になる場合は左側を下にした姿勢がおすすめです
- 炭水化物の一度摂取量を調整する:一気に大量の炭水化物をとると消化に多くの血流が必要になります。主食を少し控えめにして、複数回に分けて食べる工夫を
- 食後の激しい動きを避ける:食後すぐの動作は動悸を誘発しやすくなります。食後20〜30分は静かに過ごし、体が消化に集中できる時間を確保しましょう
食後の動悸が毎食後に強くなっている、数分以上続く、胸痛や息苦しさをともなうという場合は、自己判断せず産婦人科に相談することをおすすめします。
危険な動悸と生理的な動悸の見分け方
妊娠中の動悸のほとんどは、体の自然な変化によるものです。でも、なかには早めに医療機関を受診すべき動悸もあります。「どんな動悸が心配なの?」という疑問に、看護師の視点からお答えします。
妊娠中に多い期外収縮——脈が飛ぶ感覚の正体
「心臓が一瞬止まった感じ」「ドキンとして脈が飛ぶような感覚」——こういった訴えをされる妊婦さんは、看護師時代もとても多くいらっしゃいました。多くの場合、これは「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」と呼ばれる不整脈の一種です。
期外収縮は、心臓の拍動が通常のリズムの「外」(きがい)で発生するもので、妊娠中はホルモン変化や自律神経の乱れによって起こりやすくなります。多くの場合は生理的な(病的でない)変化であり、妊娠が終わると消えていくことが多いと言われています。「脈が飛ぶような感じが気になるけれど、それ以外の症状はない」という場合は、次の健診で相談してみてください。
ただし、頻繁に起こる場合や、動悸とともに胸の痛みや著しい息苦しさがある場合は、産科医や循環器科医に早めに相談することをおすすめします。妊娠中の不整脈については、日本心臓財団の情報も参考になります。
こんな動悸は要注意——受診の5つのサイン
以下に当てはまる動悸が出たときは、自己判断せず早めに産婦人科に連絡・受診してください。
- 胸痛・胸の締め付け感をともなう:動悸に胸の痛みや圧迫感が加わる場合は、心臓や肺に関わる状態を除外するために受診が必要です
- 失神した・意識が遠のいた:動悸で意識を失った、または意識が遠のく感じが続く場合は早急に受診してください
- 息苦しさが著しく安静にしても改善しない:横になっても動かなくても息苦しさや動悸が続くときは、受診のサインです
- 安静時に脈が100回/分を超えて続く・脈が極端に不規則:安静にしているのに脈が速いままの場合や、脈のリズムが大きく乱れている場合は相談を
- むくみ+頭痛+血圧上昇をともなう:妊娠高血圧症候群のサインである可能性があります。むくみ・頭痛・血圧上昇が重なったときは早めに受診してください
妊娠高血圧症候群については、日本産科婦人科学会の情報もあわせて参考にしてください。動悸に加えてむくみや頭痛が続くときは、ためらわず連絡してくださいね。むくみの詳しい情報はこちらの記事も、後期の頭痛と動悸の関係については頭痛の記事も参考になります。
妊婦のむくみはなぜ起きる?原因・時期別特徴・解消法・妊娠高血圧症候群との見分け方を元看護師が解説
妊娠中の頭痛はなぜ起きる?時期別の原因・薬の考え方・受診目安を元看護師が解説
周産期心筋症・不整脈との鑑別ポイント
まれではありますが、妊娠に関連した心疾患として「周産期心筋症(しゅうさんきしんきんしょう)」があります。妊娠末期から産後5か月の間に心機能が低下する状態で、動悸・息切れ・横になると息苦しい・足のむくみといった症状が現れます。通常の妊娠による動悸とは異なり、安静にしていても息苦しい、夜横になるたびに息苦しくなるといった症状が特徴的です。
「安静にしても息苦しさが続く」「以前より明らかに動きにくくなった」「夜フラットに寝られなくなった」という変化を感じたら、産科医に早めに相談してください。周産期心筋症についての詳細は、国立循環器病研究センターの情報もご参考に。
動悸や息苦しさは妊娠中に眠れない主な原因の一つです。眠れない悩みの全体像と時期別の変化・今夜から試せる対処法を解説した記事もあわせてご覧ください。
妊婦さんが寝れない原因6つと今夜から試せる対処法——元看護師ちなみが時期別に解説
妊娠中の動悸と息苦しさはセットで現れることが多い症状です。息苦しさの原因・時期別の特徴・楽になる対処法をまとめた記事もあわせてご覧ください。
妊娠中に息苦しい——原因・いつから?楽になる対処法を元看護師が解説
こうした情報を読むと不安になってしまうかもしれませんが、妊娠中の動悸の大半はこのような疾患とは無関係な、妊娠による一時的な変化によるものです。ここでの情報は「こんなサインがあれば受診する」という判断材料として持っておいていただくものです。
動悸がつらいときの対処法
動悸がつらいとき、何をすれば少し楽になるのでしょうか。ここでは、その場でできる対処から、夜の動悸への対応まで、実践的な方法をご紹介します。
その場で落ち着く——ゆっくり座る・横になる
動悸を感じたら、まず「安全な場所で体を休める」ことが最優先です。立っている場合はその場でゆっくり座るかしゃがみ、横になれる場所があれば左側を下にして横になりましょう。動悸は多くの場合、安静にすることで数分以内に落ち着いてきます。
目を閉じて、ゆっくり深呼吸をしましょう。鼻からゆっくり4〜5秒で吸い込み、口から6〜7秒かけてゆっくり吐き出す「4-7」の呼吸法は、副交感神経を優位にして動悸を落ち着かせる効果が期待できます。「動悸がする→焦る→ますます動悸がひどくなる」という悪循環を断ち切るためにも、まず呼吸に意識を向けることが助けになります。
水分補給と休息の取り方
脱水が動悸の引き金になることがあります。動悸を感じたら、まず水や白湯をゆっくり飲みましょう。一気に飲まず、少しずつこまめに飲む方が体への負担が少ないです。暑い時期や入浴後は特に脱水になりやすいので、意識して水分を補いましょう。
動悸が出やすい方は、日中の水分摂取量を意識することも大切です。妊娠中は非妊娠時よりも多くの水分が必要になります。「のどが渇く前に飲む」習慣をつけておくと、動悸予防にもつながります。外出時は飲み物を常に持ち歩きましょう。
「寝れない」夜の動悸に対処する
夜に動悸がして眠れないときは、まず左側臥位(左を下にした横向き)に変えてみましょう。これで下大静脈への圧迫が減り、動悸がおさまりやすくなります。膝の間に抱き枕や折りたたんだタオルを挟むと、姿勢が安定して楽に横向きでいられます。
就寝前2〜3時間は食事をとらない、就寝前のカフェインを避ける、寝室を涼しく保つといった環境の工夫も助けになります。「眠れない」という焦りが交感神経を刺激してさらに動悸を悪化させることがあるため、「動悸があっても横になって休んでいるだけで体は休まる」と気持ちをゆるめることも大切です。
眠れないほどの動悸が連日続く場合や、横になっても動悸がおさまらない状態が続く場合は、産婦人科に相談することをおすすめします。ひとりで抱え込まずに、担当の先生に状況を伝えてくださいね。受診のタイミングの判断に迷うときはこちらも参考にしてみてください。
妊娠したらまず何をする?産婦人科・母子手帳・仕事報告まで元看護師が解説
緊張・ストレス性の動悸へのアプローチ
妊娠中は、出産や育児への不安、仕事のこと、家族のことなど、さまざまなストレスや緊張が動悸のきっかけになることがあります。「不安になるとドキドキが強くなる」「心配事があると眠れないほど動悸がする」という場合、精神的な緊張が自律神経を乱して動悸を誘発していることも考えられます。
深呼吸、軽いストレッチ、お気に入りの音楽を聴く、ゆっくりお風呂に入る(温度が高すぎない湯加減で)など、自分なりのリラックス法を見つけておくことが助けになります。不安な気持ちが強い場合は、パートナーや信頼できる人に話すだけでも心が軽くなることがあります。「この気持ちはおかしくない」と自分に言い聞かせながら、焦らずゆっくり向き合っていきましょう。

よくある質問
Q妊娠超初期の動悸は妊娠のサインですか?
A.動悸だけで妊娠しているかどうかを判断することはできません。妊娠超初期はhCGの急増や血流増加で動悸が出やすくなりますが、疲れ・ストレス・低血圧・生理前のホルモン変化でも同様の動悸は起こります。妊娠の可能性が気になる場合は、生理予定日を1週間ほど過ぎてから妊娠検査薬で確認し、陽性なら産婦人科を受診するのが確実です。症状だけで一喜一憂せず、まず検査で確かめることをおすすめします。
Q食後の動悸を放置しても大丈夫ですか?
A.食後に一時的な動悸が出るのは、消化に血流が集中するためで、妊娠中はよく起こることです。分食(少量を複数回に分ける)・食後30分は座ったまま過ごす・ゆっくり食べるといった工夫で和らぐことが多いです。ただし、毎食後に強い動悸が続く・数分以上おさまらない・胸痛や著しい息苦しさをともなうという場合は、自己判断せず産婦人科に相談してください。
Q動悸で眠れない夜はどうすれば?
A.左側を下にした横向き姿勢(左側臥位)に変えてみましょう。大きくなった子宮が下大静脈を圧迫しにくくなり、動悸がおさまりやすくなります。膝の間に抱き枕を挟むと姿勢が安定します。就寝前2〜3時間は食事をとらないことも効果的です。焦らず「横になっているだけで体は休まる」と気持ちをゆるめることも大切です。眠れないほどの動悸が連日続く場合は産婦人科に相談してください。
Qめまいと動悸が同時に出るのはなぜ?
A.貧血や低血圧が共通の原因となっていることが多いです。貧血があると酸素を運ぶ力が落ちるため、心臓が速く動こうとして動悸が起き、同時に脳への血流も不足してめまいが出ることがあります。両方の症状が頻繁に続く場合は、次の健診で相談を。めまいについての詳しい情報は妊娠中のめまいの記事もあわせてご覧ください。
Q動悸はいつ病院に行けばいいですか?
A.①胸痛・胸の締め付け、②失神・意識消失、③安静にしても改善しない著しい息苦しさ、④安静時に脈が100回/分超が続く・脈が極端に不規則、⑤むくみ+頭痛+血圧上昇——この5つのいずれかが当てはまるときは速やかに産婦人科へ連絡・受診を。「次の健診まで待てない」と感じたら、遠慮なく電話で状況を伝えてください。
まとめ:動悸の原因を知ることが、不安を安心に変える第一歩
妊娠中の動悸は、血液量の増加による心拍数増加、hCGとプロゲステロンによる自律神経の変化、鉄欠乏性貧血(貧血性頻脈)、低血圧・起立性低血圧、後期の横隔膜圧迫、食後の血流集中など、さまざまな背景で起こります。その多くは妊娠による自然な変化によるものですが、時期や状況によって対処法が異なります。
- 妊娠中の動悸は、心拍数増加・ホルモン変化・貧血・低血圧・後期の圧迫が主な原因。多くは妊娠の自然な変化
- 超初期の動悸は「妊娠のサイン」とは断定できない。気になるなら妊娠検査薬で確認を
- 食後の動悸は消化への血流集中(食後低血圧)が原因。分食・食後に座る・ゆっくり食べる工夫を
- 「脈が飛ぶ感じ」は期外収縮であることが多く、生理的な変化のことが多い
- 胸痛・失神・著しい息苦しさ・安静時に脈100回/分超・むくみ+頭痛+血圧上昇は速やかに受診を
- 夜の動悸には左側臥位+抱き枕。就寝前2〜3時間は食事をとらない工夫も有効
- つらいときは我慢せず産科医・助産師に相談。ひとりで抱え込まなくていい
動悸がつらくても「妊娠中だから仕方ない」と我慢し続ける必要はありません。気になることは産婦人科の先生や助産師さんに遠慮なく伝えてくださいね。あなたの体の変化に、正直に向き合うことが、赤ちゃんのためにもいちばん大切なことだと思います。どうか穏やかなマタニティライフを過ごせますように。
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