「産んでから体温が37度台から下がらない」「夜中に急に寒気がして、測ったら38度あった」「これって産後だから当たり前なの、それとも受診したほうがいいの」——赤ちゃんのお世話が始まったばかりの体で熱が出ると、判断の材料がないまま不安だけが大きくなります。
しかも産後は、電話一本かけるのにも迷いが生まれます。「こんなことで産院に連絡していいのかな」「明日の朝まで様子を見たほうがいいのかな」「赤ちゃんを連れて行けないし」。その遠慮こそが、産後の発熱でいちばん気をつけたいところです。
この記事では、産後の熱を「産褥熱(さんじょくねつ)」という言葉の意味から整理して、37度台と38度以上で何が違うのか、どこで熱が出ているのかをどう切り分けるのか、そして何を目安に産院へ連絡すればいいのかまでをまとめます。元看護師で2児の母である私が、学会や公的機関が公開している情報をもとに、脅かさず・薄めずお伝えします。
ちなみ(元看護師)
目次
- 産褥熱とは?——産後の発熱のうち、感染が疑われるもの
- 37度台の微熱はなぜ出る?——産褥熱ではない発熱の正体
- 何度から受診?——迷わないための連絡ライン
- 熱の出どころはどこ?——産褥熱の原因を切り分ける
- 産褥熱になりやすいのは、どんなお産だった人?
- 産褥熱はどう診断されて、どう治療される?
- 産褥熱を防ぐためにできること
- 産後の発熱|どこが痛いかで見当をつける早見表
- 産後1か月・2か月たってからの発熱はどう考える?
- お母さんの熱は、赤ちゃんにうつりますか?
- かつて産褥熱は、産む人にとって最大の脅威でした
- 退院後に熱が出たとき、どこに連絡する?
- ちなみから|「熱が出た」は、遠慮して待つ症状ではありません
- まとめ|産褥熱は、早く伝えれば怖い病気ではありません
- よくある質問(産褥熱|FAQ)
- 続けて読みたい関連記事
産褥熱とは?——産後の発熱のうち、感染が疑われるもの
まず言葉の整理からです。「産褥熱」は、産後に出る熱すべてを指す言葉ではありません。産後の体に感染が起きているときの発熱を指す、医学用語です。
産褥期(さんじょくき)というのは、出産で変化した体が妊娠前の状態に戻っていく期間のこと。一般にはおよそ6〜8週間とされています。この期間に出る発熱のうち、感染が背景にあると考えられるものが産褥熱です。
産後は、そもそも体温が上がりやすい
出産直後は、それだけで体温が上がることがあります。長時間の陣痛、いきむときの筋肉の活動、出血と脱水、そして分娩そのものが体にとって大きな負担になるためです。
MSDマニュアル家庭版も「分娩の直後はたいてい体温が上昇します」と記しています。つまり、産んだ直後に少し熱っぽいこと自体は、それだけで異常とは限りません。
ここが判断を難しくしている理由です。「産後は熱が出やすい」も本当だし、「産後の発熱は放置してはいけない」も本当。だから、両方を分ける線が必要になります。
最初の分かれ目は「分娩から24時間」
その線として使われているのが、分娩からの経過時間です。
MSDマニュアル家庭版によれば、分娩から12時間以内に38度以上になった場合は感染が疑われるものの、感染でないこともあります。一方、分娩後24時間を過ぎてから、6時間以上の間隔をあけて測った体温が2回とも38度以上だった場合は、ほかに感染を示す症状があるときは特に、分娩後の感染症と診断されます。
- 分娩から24時間以内の発熱…お産そのものの影響で上がっていることがある
- 分娩から24時間以降の38度以上…感染を疑って調べる対象になる
ただしこれは診断のための考え方であって、「24時間以内なら連絡しなくていい」という意味ではありません。入院中であれば、熱が出たことは必ずスタッフに伝えてください。
日本の産科で使われてきた「産褥熱」の定義
日本の産科では、産褥熱を「分娩後24時間以降、産褥10日以内に、2日以上にわたって38度以上の発熱が続くもの」として扱う定義が長く使われてきました。学会誌でも産褥期の発熱は独立したテーマとして繰り返し取り上げられています。
数字が並ぶと身構えてしまいますが、この定義が言っているのはシンプルなことです。「産んで丸1日たったあとの、続く38度台」は、体のどこかで感染が起きているサインとして扱う——それだけです。
「産褥熱」と「産後の発熱」は同じではありません
ここを混同すると、必要のない自責が生まれます。産後に熱が出た人がみんな産褥熱というわけではありませんし、逆に「産褥熱ではないから大丈夫」という結論も、原因を確かめないまま出すことはできません。
この記事では、以下の順番で整理していきます。まず37度台の微熱に何が起きているのか。次に、何度から誰に連絡するのか。そして、熱の出どころをどう切り分けるのか。

37度台の微熱はなぜ出る?——産褥熱ではない発熱の正体
産後にいちばん多い相談が、この37度台です。「熱と言えるほどでもないけれど、平熱には戻らない」という状態。ここには、感染以外の理由がいくつも重なっています。
お産そのものの疲れと脱水
陣痛から分娩までの時間は、長い人では丸1日を超えます。その間の消耗、汗と出血による水分の喪失、産後の睡眠不足。これらが重なると、体温はわずかに高めで推移することがあります。
産後は授乳で水分がどんどん出ていくのに、赤ちゃんのお世話に追われて自分が飲むのを忘れがちです。水分が足りない状態は、体温を下げにくくします。
母乳がたまることで出る熱
産後3日前後から、乳房が張って熱をもつ時期があります。乳汁が急に作られはじめて、まだ出ていくペースが追いつかないためです。このとき一時的に体温が上がることがあり、産科の現場では昔から知られています。
見分け方の入口は、乳房に張り・しこり・痛み・熱感があるかどうかです。乳房に症状が集中していて、授乳や搾乳のあとに楽になるなら、乳房側の問題である可能性が高くなります。
ただし、これが進むと乳腺炎になります。乳腺炎は38度以上の熱と強い悪寒を伴うことが多く、放っておいてよいものではありません。乳房の一部が赤く腫れて痛い、押すと激痛がある、という段階なら早めの相談が必要です。
乳腺炎とは?なりかけのサイン・症状と対処法・授乳を続けていいのかを元看護師が解説
睡眠不足と自律神経
新生児期は2〜3時間おきの授乳が続きます。まとまった睡眠が取れない状態そのものが、体温調節を不安定にします。夕方だけ37度台になる、というパターンはこの背景で起きることがあります。
37度台でも「様子見でいい」と言い切れない場合
ここが大事なところです。感染が起きていても、最初は微熱だけということがあります。MSDマニュアル家庭版も、子宮の感染症について「症状が微熱だけの場合もあります」と明記しています。
- 悪露の量が急に増えた/血のかたまりが出る/いやなにおいがする
- 下腹部が痛む・押すと痛い・お腹が張って苦しい
- 寒気やふるえがある(体温の数字より、この感覚のほうが重い意味を持つことがあります)
- 会陰や帝王切開の傷が赤い・腫れている・じくじくする・痛みが強くなった
- おしっこのときに痛い・回数が増えた・背中や脇腹が痛い
- 片方の脚だけがむくむ・痛む・熱をもつ
- だるくて起き上がれない、食欲がまったくない
体温の数字だけで判断しない、というのが産後の発熱のコツです。「何度あるか」より「熱以外に何が起きているか」のほうが、原因の場所を教えてくれます。
何度から受診?——迷わないための連絡ライン
では、実際に何度で誰に連絡すればいいのか。ここを具体的にします。
38度以上が出たら、時間帯を問わず産院へ連絡する
MSDマニュアル家庭版は、分娩後1週間以内に38度以上の発熱がみられたら、直ちに医師に連絡してくださいと記しています。夜だから、休日だからと待つ必要はありません。
産院の側からすると、産後すぐの時期の発熱は「連絡してもらって当然のこと」です。むしろ、朝まで待ってから連絡されるほうが困ります。夜間の連絡先は、退院時にもらった書類か母子健康手帳のポケットに入っていることが多いので、いま一度確認しておくと安心です。
産後1週間を過ぎていても、38度台なら連絡する
感染が起きる時期は、産後すぐとは限りません。子宮の感染症は分娩後1〜3日以内に症状が出ることが多いとされていますが、乳腺炎は産後数週間から数か月後にも起こりますし、帝王切開の創部の感染や尿路の感染はもう少し遅れて出ることもあります。
目安としては、産後1か月健診までは、まず出産した産院に連絡すると考えておくのが確実です。
熱がないのに悪寒・寒気だけがあるとき
「寒気がするのに測ると平熱」という状態を経験することがあります。これは、これから体温が上がる途中である可能性があります。体温を上げるために体が震えて熱を作っている段階では、まだ数字に出ていないことがあるからです。
そのときは30分〜1時間ほどあけてもう一度測ってみてください。強いふるえ(歯がガチガチ鳴る、体が勝手に震える)を伴う場合は、体温を待たずに連絡してよいサインです。
連絡するときに伝えると話が早いこと
- 出産した日と分娩の方法(経腟分娩か帝王切開か)
- いま何度か/いつから何度が続いているか(測った時刻もあると助かります)
- 悪露の量・色・においの変化
- お腹の痛み、乳房の張りや痛み、傷の痛み、排尿時の痛み——どこが痛いか
- 寒気・ふるえの有無
- 母乳をあげているか(薬の選び方に関わります)
これを言えるようにしておくだけで、電話口での判断がぐっと速くなります。産後で頭が回らない前提で、あらかじめスマホのメモに残しておくのがおすすめです。

熱の出どころはどこ?——産褥熱の原因を切り分ける
産褥熱は「産後に出る、原因のわからない熱」ではありません。必ずどこかに出どころがあります。その場所によって、伴う症状も治療も変わります。ここが、産後の発熱を理解するうえでいちばん役に立つ部分です。
子宮——いちばん多い出どころ
MSDマニュアル家庭版は「分娩後の感染症は通常、子宮から始まります」と述べています。胎盤がはがれた部分は、子宮の内側にできた大きな傷のような状態です。そこに腟の常在菌が入り込むと、子宮内膜炎などの感染が起こることがあります。
このときの症状は、下腹部の痛み、骨盤の痛み、発熱、悪寒、けん怠感、そしてにおいのある悪露です。心拍数が上がることも多く、子宮を押すと痛みがあります。発熱は分娩後1〜3日以内に起こる場合がほとんどとされています。
悪露のにおいは、自分で気づける数少ない手がかりです。産後の悪露は本来、生理の血に似たにおいで、日を追って量も色も落ち着いていきます。そこから外れた強いにおいがあるときは、熱がなくても相談する価値があります。
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乳房——乳腺炎
乳房のどこかに乳汁がとどこおり、そこに炎症や感染が起きた状態です。片方の乳房の一部が赤く腫れて硬くなり、押すと強く痛みます。38度以上の発熱と、インフルエンザのような強い悪寒・関節の痛みを伴うことが多いのが特徴です。
産後の熱で「乳房が痛い」がセットになっているなら、まずここを疑います。授乳を続けてよいかどうかも含めて、産院や母乳外来に相談してください。
傷——会陰切開と帝王切開の創部
会陰切開や会陰裂傷の縫合部、帝王切開の傷は、どちらも感染の入口になり得ます。傷の赤み、腫れ、じくじくした滲出液、日ごとに増していく痛み。「昨日より痛い」は、傷では要注意のサインです。
帝王切開は、経腟分娩より子宮の感染が起きやすい条件のひとつとして挙げられています。だからこそ手術の直前に予防的に抗菌薬が使われることがあります。
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尿路——膀胱炎と腎盂腎炎
分娩中や分娩後に膀胱にカテーテルを入れていた場合、膀胱の感染が起きるリスクが高くなります。排尿時の痛み、頻尿が主な症状で、感染が腎臓まで広がると発熱に加えて腰やわき腹の痛みが出ます。
産後は会陰の傷が痛くて排尿を我慢しがちですが、尿をためることは感染にとって有利に働きます。痛くても、時間を決めてトイレに行くほうが結果的に楽です。
脚の血栓——熱以外のサインが決め手になる
産後は血が固まりやすい状態にあり、脚の静脈に血栓ができることがあります。骨盤内の静脈に血栓と感染が重なると、発熱の原因になることもあります。
この場合の手がかりは、熱の数字ではなく脚の左右差です。片方のふくらはぎだけがむくむ、痛む、熱をもつ、色が変わる。両脚が同じようにむくんでいるのは産後によくあることですが、片脚だけは別の意味を持ちます。息苦しさや胸の痛みを伴う場合は、待たずに連絡してください。
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赤ちゃんや家族からもらった感染症
産後の発熱がすべて産褥熱というわけではありません。上の子が保育園からもらってきた感染症や、季節性の感染症にかかることもあります。のどの痛み、咳、鼻水、下痢といった症状がそろっているなら、そちらの可能性が高くなります。
ただし、産後の体は消耗しています。「ただの風邪だろう」と自己判断で市販薬を飲む前に、授乳中であることも含めて相談してください。
産褥熱になりやすいのは、どんなお産だった人?
この節を読むときに、先にお伝えしておきたいことがあります。ここに挙がる条件は、あなたが選べたことではありません。お産の経過は自分でコントロールできるものではなく、条件に当てはまったからといって、何かを間違えたわけではまったくありません。
それでも知っておく意味があるのは、当てはまる人ほど「早めに連絡する」という判断を迷わず取れるようになるからです。
破水から出産までの時間が長かった
破水してから分娩までの時間が長引いた場合(しばしば18時間以上とされます)は、子宮内に細菌が入る時間も長くなります。分娩が長引いた場合、陣痛中に子宮口の内診を何度も受けた場合も同様です。
帝王切開だった
帝王切開は、子宮の感染が起こる条件のひとつとして挙げられています。傷そのものの感染に加えて、子宮の中の感染も起こり得ます。
胎盤が残っていた・出血が多かった
分娩後に胎盤の一部が子宮に残ってしまった場合や、それを手で取り除く処置があった場合、また分娩後の出血が多かった場合も、感染のリスクが上がるとされています。
そのほかに挙げられている条件
- 破水から分娩までが長引いた(しばしば18時間以上)
- 分娩に長い時間がかかった
- 陣痛中に子宮口の診察を何度も受けた
- 絨毛膜羊膜炎(赤ちゃんを包む膜の感染)があった
- 子宮内で胎児の状態をモニタリングした
- 帝王切開だった
- 胎盤の断片が子宮に残っていた/手で取り除く処置をした
- 分娩後の出血が多かった
- 細菌性腟症があった
- 糖尿病がある
出典:MSDマニュアル家庭版「分娩後の子宮の感染症」
ちなみ(元看護師)
産褥熱はどう診断されて、どう治療される?
「病院に行ったら何をされるんだろう」がわからないことも、連絡をためらう理由になります。ここは先に知っておくと気が楽になる部分です。
診断は、問診と診察が中心
大がかりな検査から始まるわけではありません。MSDマニュアル家庭版によれば、子宮の感染症の診断は主に身体診察の結果に基づいて下されます。お腹を押して痛みを見る、悪露の状態を見る、傷や乳房を見る。そのうえで、分娩後24時間の時点で発熱があり、ほかに原因が見当たらなければ感染症と診断されることがあります。
必要に応じて、尿の検査、血液検査、超音波検査などが加わります。尿路の感染が疑われるときは尿の検査と分析が診断の柱になります。
治療は抗菌薬が基本
感染が原因であれば、抗菌薬による治療が行われます。子宮の感染症では、平熱の状態が48時間以上続くようになるまで抗菌薬を点滴で投与するのが一般的で、その後は内服が不要になることがほとんどとされています。
膀胱の感染では抗菌薬の内服、腎臓の感染では点滴、というように場所によって進め方が変わります。
つまり入院になるかどうかは、熱の出どころと重さで変わります。「連絡したら必ず入院になる」わけではありません。
どのくらいで熱は下がる?
抗菌薬が効きはじめれば熱は下がっていきますが、「平熱が48時間続くまで」という基準からもわかるとおり、下がってすぐ治療終了ではありません。一度下がったからと自己判断で通院や内服をやめてしまうと、ぶり返すことがあります。
MSDマニュアル家庭版も、腹膜炎や骨盤内の血栓、敗血症といった重い合併症について「特に産後の発熱に対し迅速な診断と治療が行われていれば、めったに起こりません」としています。早さがそのまま安全につながるのが、この病気の性質です。
治療中、授乳は続けられる?
多くの場合、続けられます。ただし薬の種類によって考え方が変わるので、自分で判断せず必ず主治医に「母乳をあげています」と伝えてください。
国立成育医療研究センターは「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧を公開しており、多くの抗菌薬が掲載されています。ただし同センターは、薬の使用や中止は自己判断ではなく必ず医師と相談して決めるよう明記しています。
乳腺炎の場合は、むしろ乳汁を出し続けることが治療の一部になります。「熱があるから授乳をやめる」が正しいとは限らない、というのは覚えておいてよいところです。
参考 授乳中に安全に使用できると考えられる薬(薬効順)国立成育医療研究センター

産褥熱を防ぐためにできること
完全に防げるものではありませんが、リスクを減らす方向に働くことはあります。どれも特別なことではなく、「産後の体は傷を負っている」という前提を思い出すためのものです。
悪露のケア——ためない、こすらない
産褥パッドはこまめに替えます。「まだ汚れていないから」ではなく、時間で替えるほうが安全です。トイレのたびに交換するくらいの頻度が目安になります。
外陰部は前から後ろへ、こすらずに洗い流します。産院で使う洗浄ボトルが便利なのは、傷に触れずに流せるからです。石けんでゴシゴシ洗うのは、かえって刺激になります。
傷の扱い——痛みの変化を毎日見る
会陰の傷も帝王切開の傷も、清潔と乾燥が基本です。そして毎日、痛みが昨日より強くなっていないかだけ確認します。傷は本来、日ごとに楽になっていくもの。逆行するときは何かが起きています。
尿をためない
先に触れたとおり、排尿を我慢することは尿路の感染にとって有利に働きます。傷が痛くてトイレに行くのがつらい時期こそ、時間を決めて行くようにしてください。
眠れる時間を確保する——これも予防です
精神論ではありません。睡眠不足は体の抵抗力を落とします。産後に「休みましょう」と言われるのは、気持ちの問題ではなく体の防御の問題です。
とはいえ、赤ちゃんがいる家で自力で休むのは簡単ではありません。だからこそ、自治体の産後ケア事業のような外部の手を早い段階で確保しておく意味があります。産後ケア事業は、産後の母子が宿泊型・日帰り型・訪問型で心身のケアや育児のサポートを受けられる仕組みで、多くの自治体で実施されています。
参考 母子保健(産前・産後サポート事業/産後ケア事業)こども家庭庁
産後の発熱|どこが痛いかで見当をつける早見表
原因ごとの説明を、伴う症状から引ける形にまとめます。あくまで見当をつけるためのもので、これで自己診断をするためのものではありません。連絡するときに「たぶんこのあたりだと思います」と言えるだけで、話が早くなります。
| 熱以外に出ている症状 | 考えられる出どころ | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 下腹部の痛み・悪露のにおい・悪露の量が増えた | 子宮の感染(子宮内膜炎など) | 分娩後1〜3日以内が多い |
| 片方の乳房が赤く腫れて痛い・強い悪寒・関節痛 | 乳腺炎 | 産後数週間〜数か月まで幅がある |
| 会陰や帝王切開の傷が赤い・腫れる・痛みが増していく | 創部の感染 | 産後数日〜2週間ごろ |
| 排尿時の痛み・頻尿・腰やわき腹の痛み | 膀胱炎・腎盂腎炎 | カテーテル使用後に多い |
| 片脚だけのむくみ・痛み・熱感/息苦しさ・胸の痛み | 血栓に関連するもの | 産後数日〜数週間 |
| 乳房が全体に張って熱をもつ・授乳後に楽になる | 乳汁がたまることによる一時的な発熱 | 産後3日前後 |
| のどの痛み・咳・鼻水・下痢が家族にも出ている | 季節性の感染症など | 時期を問わない |
どこにも当てはまらない、あるいは複数に当てはまるという場合も珍しくありません。そのときも「わからないので相談したい」で十分です。切り分けるのは医療者の仕事です。
産後1か月・2か月たってからの発熱はどう考える?
産褥熱という言葉は産後10日以内を想定した定義で使われますが、実際には「産後1か月をすぎてから熱が出た」という相談も多くあります。この時期の発熱は、産褥熱そのものというより、いくつかの別の可能性を考えることになります。
いちばん多いのは乳腺炎
産後1か月以降の発熱で最も多いのが乳腺炎です。授乳のリズムが変わるタイミング——赤ちゃんがまとめて寝るようになった、外出が増えて授乳間隔があいた、上の子の行事で忙しかった——のあとに起きやすくなります。
乳房の症状とセットになっているかどうかが最初の確認点です。
「疲れが出た」で片づける前に確認したいこと
産後1か月ごろは、里帰りから戻る、家族のサポートが終わる、上の子の生活に本格的に合わせはじめる、といった変化が重なる時期です。実際に疲労で体調を崩しやすくなります。
ただ、「疲れだろう」と決めるのは、以下を確認したあとにしてください。
- 悪露がいったん減ったのに、また増えていないか/においが変わっていないか
- 乳房に痛みやしこりがないか
- 帝王切開や会陰の傷に赤みや痛みが戻っていないか
- 排尿時の痛みや頻尿がないか
- 38度台の熱が出たり下がったりを繰り返していないか
とくに最後の「繰り返す」は、体のどこかで炎症が続いているサインのことがあります。1回で終わらない熱は、必ず相談してください。
生理の再開や、いつもと違う体調の波
産後の生理が再開する前後は、体調が不安定になることがあります。ただし、生理に伴う不調で38度台の熱が出ることは一般的ではありません。「生理前だから」で高い熱を説明しないでください。
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気持ちの落ち込みが同時に来ているとき
体調不良と気持ちの落ち込みは、産後には同時にやってきます。熱が続く、だるさが取れない、何もする気が起きない——このとき、体の原因を探すことと、こころの負担を見ることは、どちらか片方ではありません。
体の検査で異常がなかったときこそ、こころの側の相談窓口につながっておく意味があります。
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お母さんの熱は、赤ちゃんにうつりますか?
これも産後によく聞かれる不安です。答えは、原因によって変わります。
産褥熱のように、お母さんの体の中(子宮・傷・尿路)で起きている感染は、そのまま赤ちゃんにうつるという性質のものではありません。乳腺炎も同様で、授乳を続けてよいと判断されることがほとんどです。
一方、風邪やインフルエンザ、胃腸炎といった、人から人へうつる感染症であれば、赤ちゃんにうつる可能性があります。この場合も、多くの状況で授乳自体は続けられますが、マスクの着用や手洗いといった対策が必要になります。
どちらのタイプなのかを自分で判断するのは難しいので、受診したときに「赤ちゃんに授乳を続けて大丈夫ですか」とその場で聞いてしまうのがいちばん早い方法です。
ちなみ(元看護師)
かつて産褥熱は、産む人にとって最大の脅威でした
少し歴史の話をさせてください。産褥熱という言葉が重く響くのは、この病気がかつて多くの命を奪ってきた歴史があるからです。
19世紀のヨーロッパでは、病院で出産した人が産褥熱で亡くなることが珍しくありませんでした。当時は感染という概念そのものが確立しておらず、原因は「悪い空気」などと考えられていました。
ウィーンの医師イグナーツ・ゼンメルワイスは、医師が処置の前に手を消毒することで産褥熱による死亡が大きく減ることを示したと伝えられています。手を洗う。それだけのことが、当時は受け入れられるまでに長い時間がかかりました。
いま産褥熱がめったに重症化しないのは、この「原因は感染である」という理解と、清潔な分娩環境、そして抗菌薬があるからです。産後に熱が出ること自体は昔と変わらず起こりますが、結果はまったく違うものになりました。
その前提のうえで、いまも変わらず効いている唯一の要素があります。それが「早く伝えること」です。
退院後に熱が出たとき、どこに連絡する?
入院中なら迷いません。困るのは退院後です。
産後1か月健診までは、まず出産した産院
お産の経過を知っているのは、産んだ産院です。「破水から長かった」「出血が多かった」「胎盤の処置をした」といった情報は、そこにしかありません。まずここに連絡するのが、いちばん早く正確です。
里帰り出産で遠方にいる場合も、まずは出産した産院に電話で相談してみてください。そのうえで、いま滞在している地域で受診できるところを教えてもらえることがあります。
1か月健診を過ぎているとき
乳房の症状があるなら産院や母乳外来、排尿の症状があるなら泌尿器科や内科、といったように症状の中心で選びます。判断がつかないときは、まず出産した産院か、かかりつけの内科に電話で相談するのが確実です。
夜間・休日のとき
産後すぐの時期の38度以上は、翌朝まで待つ理由がありません。退院時に渡された緊急連絡先に電話してください。連絡先が見つからないときは、お住まいの自治体の救急相談窓口が使えます。
赤ちゃんを預けられないとき
「連れて行けないから行けない」が受診をあきらめる理由になりがちです。電話の時点で「赤ちゃんを連れて行きます」と伝えておけば、産院側で待ち方を配慮してもらえることがあります。産科は、赤ちゃん連れが前提の場所です。
パートナーや家族に頼れる時間があるなら、この用事を最優先に回してください。産後の発熱は、後回しにしていい種類の用事ではありません。
ちなみから|「熱が出た」は、遠慮して待つ症状ではありません
看護師として働いていたころ、産後の方から「こんなことで連絡してすみません」と言われることが本当に多くありました。夜中に38度が出ていて、それでも謝ってから話しはじめる。
でも、産後の発熱は医療者にとって「連絡してもらえてよかった」の代表格です。何もなければそれでいい。何かあれば早く手が打てる。どちらに転んでも、連絡したほうがよかったという結果にしかなりません。
私自身、2人を産んで実感したのは、産後は自分の体の異変にいちばん気づきにくい時期だということでした。赤ちゃんのことは1日に何十回も観察するのに、自分のことは後回しになる。だるさも痛みも「産後だから」で片づけてしまう。
ちなみ(元看護師)
そして、家族にも共有しておいてください。産後に熱が出たら産院に連絡する——それだけ決めておくと、判断を一人で背負わずにすみます。
まとめ|産褥熱は、早く伝えれば怖い病気ではありません
- 産褥熱は、産後の発熱のうち感染が背景にあるものを指す言葉。産後の熱すべてを指すわけではない
- 分娩から24時間以内の発熱はお産そのものの影響のこともあるが、24時間を過ぎてからの38度以上は感染を疑って調べる対象になる
- 37度台には脱水・疲労・乳房の張りなどの理由もあるが、感染でも最初は微熱だけのことがある
- 体温の数字より、悪露のにおい・下腹部痛・乳房の痛み・傷の痛みの増悪・排尿時痛・片脚だけのむくみ・強い寒気が原因の場所を教えてくれる
- 分娩後1週間以内の38度以上は、時間帯を問わずすぐ産院へ連絡する
- 治療は抗菌薬が基本で、多くの場合は授乳を続けられる。自己判断で薬をやめない
- 重い合併症は、迅速な診断と治療が行われていればめったに起こらない
産後の体は、外からは見えない大きな傷を抱えています。そのうえで24時間の育児が始まっている——それが産褥期です。熱が出るというのは、その体が何かを知らせている合図であって、あなたの不注意の結果ではありません。
今日できるいちばん確実な行動は、体温計を手の届くところに置いて、出産した産院の連絡先をスマホに登録しておくことです。それだけで、次に熱が出たときの判断がずいぶん軽くなります。
産褥期の体の変化全体については、時期ごとの見通しをまとめた記事も用意しています。あわせて読んでみてください。
よくある質問(産褥熱|FAQ)
Q産褥熱は何度からですか?
A.日本の産科では「分娩後24時間以降、産褥10日以内に、2日以上にわたって38度以上の発熱が続くもの」という定義が長く使われてきました。MSDマニュアル家庭版も、分娩後24時間を過ぎてから6時間以上の間隔をあけて測った体温が2回とも38度以上で、ほかに感染を示す症状もある場合に分娩後の感染症と診断されるとしています。ただしこれは診断の基準であって、連絡の基準ではありません。38度以上が一度出た時点で産院に連絡して構いません。
Q産後に37度台の微熱が続きます。受診したほうがいいですか?
A.脱水や睡眠不足、乳房の張りなどでも37度台になることがあります。ただし感染が起きていても最初は微熱だけということがあり、MSDマニュアル家庭版も子宮の感染症について「症状が微熱だけの場合もあります」と記しています。悪露のにおい、下腹部の痛み、乳房の痛み、傷の痛みの増悪、排尿時の痛み、強い寒気のいずれかがあれば、37度台でも連絡してください。
Q産褥熱は何日くらいで治りますか?
A.感染の場所と重さによります。子宮の感染症では、平熱の状態が48時間以上続くようになるまで抗菌薬を点滴で投与するのが一般的で、その後は内服が不要になることがほとんどとされています。熱が下がってすぐ治療終了ではないため、自己判断で通院や内服をやめないでください。
Q熱が出ましたが、寒気だけで体温は平熱です。様子を見ていいですか?
A.これから体温が上がる途中である可能性があります。体温を上げるために体が震えている段階では、まだ数字に出ていないことがあるためです。30分から1時間ほどあけてもう一度測ってみてください。歯がガチガチ鳴るような強いふるえがあるときは、体温の数字を待たずに産院へ連絡して構いません。
Q産褥熱の治療中でも母乳をあげられますか?
A.多くの場合は続けられます。国立成育医療研究センターは「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧を公開しており、多くの抗菌薬が掲載されています。ただし同センターは薬の使用や中止を自己判断せず必ず医師と相談するよう明記しているため、受診時に「母乳をあげています」と必ず伝えてください。乳腺炎の場合は、乳汁を出し続けること自体が治療の一部になります。
Q帝王切開だと産褥熱になりやすいのですか?
A.帝王切開は、分娩後の子宮の感染症が起こりやすくなる条件のひとつとして挙げられています。傷そのものの感染も起こり得ます。そのため手術の直前に予防的に抗菌薬が投与されることがあります。当てはまるからといって落ち度があるわけではなく、熱が出たときに早めに連絡する材料として知っておいてください。
続けて読みたい関連記事
産褥期とは?いつまで続く?体の変化・過ごし方・働ける時期まで元看護師がまるごと解説

