「妊娠中って、旅行に行ってもいいのかな」——つわりが落ち着いてきたころ、ふとそう考える方は多いと思います。
赤ちゃんが生まれたら、しばらく夫婦だけの旅行はできません。だからこそ「いま行っておきたい」という気持ちが出てきます。一方で、ネットを開くと「安定期なら大丈夫」という声と「やめておいたほうがいい」という声の両方が出てきて、結局どうすればいいのかわからなくなる。そういう方がとても多いです。
この記事では、元看護師で2児の母である私「ちなみ」が、妊娠中の旅行について、行ける時期の目安・移動手段ごとの注意点・海外旅行の判断材料・持ち物・引き返すサインまでを整理しました。
先に結論を書いておきます。妊娠中の旅行を禁止する決まりはありません。ただし「行っていい」と誰かが保証してくれるものでもありません。だからこそ、判断に必要な材料をそろえることがいちばん大事です。この記事はそのための材料をそろえる記事です。
妊娠中に旅行へ行ってもいいの?——まず押さえたい前提
「行ってはいけない」という決まりはありません
まずここをはっきりさせておきます。妊娠しているという理由だけで旅行を禁じるルールは、日本にはありません。経過が順調で、体調がよく、無理のない行程であれば、旅行に行く妊婦さんはたくさんいます。
「マタ旅」という言葉が広まって、宿泊施設側にも妊婦さん向けのプランを用意しているところが増えました。それだけ一般的なことになっている、ということです。
ただし、自己責任の範囲は確実に広がります
一方で、忘れてはいけない現実もあります。旅先には、あなたのことを知っているかかりつけの病院がありません。
妊娠中のトラブルは、多くの場合「急に」起こります。おなかの張りが止まらない、出血した、破水したかもしれない——そういうとき、ふだんなら電話一本でかかりつけに相談できます。ところが旅先では、まず病院を探すところから始まります。
しかも妊婦さんの急な受診は、産科がある病院でないと対応できません。地域によっては産科そのものが少なく、受け入れ先を探すのに時間がかかることもあります。看護師として働いていたころ、こうした事情は何度も目にしました。
ちなみ(元看護師)
最初にやることは、健診で相談することです
迷ったときにいちばん確実なのは、次の妊婦健診で先生や助産師さんに直接聞くことです。ネットの一般論より、あなたの経過を見ている人の一言のほうがはるかに正確です。
聞き方は難しく考えなくてかまいません。こんなふうに具体的に伝えると答えてもらいやすくなります。
- いつ行くか——「妊娠◯週ごろに」と週数で伝える
- どこへ行くか——都市部か、山間部か、離島か、海外か
- どうやって行くか——車で何時間、新幹線で何時間、飛行機か
- 何泊するか——日帰りか、1泊か、それ以上か
- 誰と行くか——ひとりにならない時間があるかどうか
この5つを伝えるだけで、「その行程なら大丈夫そう」「そこはやめておいたほうがいい」という具体的な返事がもらえます。漠然と「旅行に行ってもいいですか」と聞くと、漠然とした答えしか返ってこないので、ここは具体的に聞くのがコツです。
妊婦健診の頻度は?回数・スケジュール・毎回の検査内容と費用を元看護師が解説
医学的に「今回は見送り」を考えたほうがよい場合
以下にあてはまる方は、旅行そのものを慎重に考えたほうがよい、と言われることが多いです。あくまで一般的な目安であり、最終的な判断は主治医によります。
- 切迫流産・切迫早産と言われている、または安静の指示が出ている
- 前置胎盤・低置胎盤と言われている
- 妊娠高血圧症候群と言われている、血圧が高めと指摘されている
- 双子など多胎妊娠である
- 子宮頸管が短いと言われている
- これまでに早産や流産をくり返している
- 出血やおなかの張りがくり返し起きている
- 持病があり、内服の管理が必要
これらに該当しても「絶対に行けない」という意味ではありません。ただ、自己判断で決めずに必ず相談してほしいグループです。
切迫早産とは?症状・原因・なりやすい人の特徴から入院期間まで元看護師が解説

妊娠中の旅行はいつからいつまで?時期別の目安
結論:行くなら妊娠中期(16〜27週ごろ)
一般的にすすめられるのは、妊娠中期、とくに妊娠16週から27週ごろです。月数でいうと妊娠5か月から7か月にあたります。
理由はシンプルで、この時期がいちばん体が動きやすく、トラブルが起きにくい時期だからです。つわりが落ち着いてくる人が多く、おなかもまだそこまで大きくなく、動きに制限が少ない。妊娠期間全体のなかで、体力的にいちばん余裕があるのがここです。
妊娠週数の数え方|受精より2週早いのはなぜ?週数↔月数の早見表・出産予定日まで元看護師が解説
| 時期 | 週数 | 旅行の目安 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 妊娠初期 | 〜15週 | おすすめしない | つわりのピーク。流産が起こりやすい時期でもあり、体調が読めない |
| 妊娠中期 | 16〜27週 | 行くならここ | つわりが落ち着く人が多く、おなかもまだ動きやすい。いわゆる安定期 |
| 妊娠後期(前半) | 28〜33週 | 慎重に。近場・短時間なら | おなかが大きく疲れやすい。早産の可能性を考える時期に入る |
| 妊娠後期(後半) | 34週〜 | 基本的に見送り | いつ陣痛が来てもおかしくない。里帰りの時期とも重なる |
妊娠初期(〜15週)をすすめない理由
妊娠初期をすすめないのは、つわりで動けない可能性が高いから、そして流産が起こりやすい時期だからの2つです。
つわりは日によって、時間によって波があります。前日まで元気でも、当日の朝から動けなくなることがあります。せっかく予約した旅館で一日中横になっていた、という話は珍しくありません。においに敏感になっていると、食事が出てくること自体がつらいこともあります。
もうひとつ、はっきり書いておきたいことがあります。妊娠初期の流産は、旅行に行ったから起こるものではありません。その多くは受精卵の側の要因によるものとされていて、旅行や移動が原因になるわけではありません。
それでも初期の旅行をすすめないのは、もし旅行中にそういうことが起きたら、「あのとき行かなければ」と自分を責めてしまうからです。医学的な因果関係がなくても、心はそう受け取ってしまいます。そこを避けたい、という意味合いのほうが大きいと私は思っています。
つわりはいつから?ピーク・いつまで続くかと症状・対処法を元看護師ちなみが解説
「安定期」は「何があっても安全」という意味ではありません
ここはとても大事なところです。妊娠中期は「安定期」と呼ばれますが、これは「安全が保証される期間」という意味ではありません。
安定期というのは、初期に比べて流産が起こりにくくなり、体調が落ち着く人が多い、という相対的な表現です。医学用語として厳密に定義された言葉でもありません。この時期でも切迫早産になることはありますし、出血することもあります。
「安定期に入ったからもう大丈夫」ではなく、「安定期に入ったから、無理のない範囲でなら動きやすくなった」——このくらいの受け取り方がちょうどいいと思います。
妊娠後期(28週〜)はなぜ見送るのか
妊娠後期になると、判断の軸が変わります。問題になるのは体調よりも「旅先でお産が始まったらどうするか」です。
正期産は妊娠37週からですが、早産は妊娠22週から起こりえます。28週を過ぎると、もし産まれてしまった場合にNICU(新生児集中治療室)のある病院が必要になります。旅先でそれを探すのは、現実的にとても大変です。
加えて、この時期はおなかが大きく、長時間座っているだけでも腰が痛くなり、息苦しくなり、トイレが近くなります。移動そのものが体力を削るので、行程に無理がききません。
34週以降は、里帰り出産をする方なら移動の時期とも重なります。旅行より、そちらの移動を優先させてください。
里帰り出産とは?いつ帰る・いつ戻る・手続き・お礼まで元看護師が解説
マタ旅の計画は「決める順番」で決まります
目的地は「景色」ではなく「病院までの距離」で選ぶ
ふだんの旅行なら、行きたい場所から決めます。妊娠中は逆にしてください。まず「近くに産婦人科のある病院があるか」を確認してから、行き先を決めます。
確認したいのは次の3つです。
- 滞在先から、産科のある病院まで何分か——車で30分以内が目安になります
- その病院が救急を受け付けているか——外来だけの施設だと夜間・休日は対応できません
- 滞在先が携帯電話の圏内か——山間部・離島では圏外になることがあります
この観点でいくと、離島・山奥の一軒宿・船でしか行けない場所・海外の地方都市は妊娠中の行き先としては不向きです。逆に、地方都市の中心部や温泉街の大きな宿は、病院が近いことが多く選びやすくなります。
移動時間の上限を先に決める
行程を組むときにいちばん失敗しやすいのが、移動時間の見積もりが甘いことです。
目安としては、片道の移動を2〜3時間以内に収めると、体への負担がぐっと減ります。乗り換えや待ち時間も「移動時間」に入れて計算してください。駅構内を歩く時間、空港での手続き、渋滞——これらは全部、体力を使います。
そしてもうひとつ。「行きは元気でも、帰りは疲れきっている」のが妊娠中の旅行です。帰りの行程こそ余裕をもたせてください。
日程は必ず「すかすか」にする
妊娠中の旅行で後悔しやすいのが、予定を詰め込みすぎることです。
- 1日に動く場所は1〜2か所までにする
- 午後は宿でゆっくりする時間を必ず入れる
- 朝早い出発・夜遅い到着を避ける
- 「予定していたけど今日はやめる」ができる組み方にする
- 歩く距離が長い観光地は最初から外す
「せっかく来たから」と無理をすると、その日の夜におなかが張ります。行程の半分もこなせなくても、それでいいという前提で組んでおくと、気持ちが楽になります。
予約は「キャンセルできる条件」で取る
これは声を大にして言いたいことです。妊娠中の旅行は、直前でキャンセルになる可能性が常にあります。
宿も交通機関も、キャンセル料がいつから発生するかを必ず確認してから予約してください。少し高くても、直前まで無料でキャンセルできるプランを選んでおくほうが、結果的に安心して過ごせます。
「キャンセル料がもったいないから」という理由で、体調が悪いのに出発してしまう——これがいちばん避けたいパターンです。キャンセルできる条件で予約しておくことは、そのまま体を守ることにつながります。

移動手段別の注意点——車・電車・飛行機
車:こまめに止まることがすべてです
自分たちのペースで動けるので、妊娠中にはいちばん使いやすい手段です。急に気分が悪くなっても、すぐ止まれるのが強みです。
気をつけたいのはこの3点です。
- 1時間から1時間半ごとに休憩する——サービスエリアや道の駅で必ず降りて、少し歩く
- シートベルトは必ず着ける——腰ベルトはおなかの下(骨盤の位置)を通し、肩ベルトはおなかを避けて胸の間を通す。おなかの上を横切らせない
- できれば運転は代わってもらう——長時間の運転は同じ姿勢が続き、集中力も使います
電車・新幹線:座席の選び方で快適さが変わります
新幹線はトイレが近く、席を立ちやすく、揺れが少ないので、長距離では有力な選択肢です。
- 指定席を取る——自由席で立つ可能性は避けてください
- 通路側を取る——トイレに立ちやすく、足も伸ばしやすい
- トイレに近い車両を選ぶ——妊娠中はトイレが近くなります
- 多目的室のある車両の近くを選ぶ——体調が悪くなったときに、車掌さんに相談すると使わせてもらえる場合があります
- 乗り換えの少ないルートを選ぶ——多少遠回りでも、階段の上り下りが減るほうが楽です
在来線の場合は、通勤ラッシュの時間帯を避けるのがいちばん大事です。混雑した車内で押されるのは避けたい状況です。マタニティマークを見えるところに着けておくと、席をゆずってもらえることもあります。
妊娠中のトイレが近い原因は?時期別の特徴と膀胱炎との見分け方を元看護師が解説
飛行機:航空会社ごとのルールを必ず確認する
妊娠中でも飛行機には乗れます。ただし、出産予定日が近づくと航空会社ごとに条件がつきます。
たとえばANAの場合、出産予定日を含めて28日以内の搭乗には医師の診断書の提出が必要とされています。診断書は搭乗日を含めて7日以内に発行された、航空旅行に健康上の支障がないという旨を医師が明記したものである必要があります。さらに出産予定日を含めて14日以内になると、診断書に加えて医師の同伴が求められます。また、出産予定日から28日以内の方は非常口座席を利用できません。
この条件は航空会社によって異なり、国内線と国際線でも扱いが違うことがあります。内容が変更されることもあります。予約の前に、必ず利用する航空会社の公式サイトで最新の内容を確認してください。
機内での過ごし方で気をつけたいのは、同じ姿勢で座り続けることです。
- 水分をこまめにとる——機内は乾燥しています
- 1〜2時間ごとに立って歩く——通路側の席を取っておくと動きやすい
- 座ったまま足首を回す・かかとを上げ下げする
- 締めつけない服装にする——着圧ソックスを使うなら、事前に健診で相談を
- シートベルトは腰の低い位置(おなかの下)で締める
妊娠中は血液が固まりやすい状態になると言われています。長時間動かずにいると、足の静脈に血のかたまりができることがあり、いわゆるエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)につながることがあります。これは飛行機に限らず、長距離バスや長時間の車移動でも同じです。ふくらはぎが片方だけ腫れる・痛む・赤くなるといった変化があれば、その場で受診を考えてください。
妊婦のむくみはなぜ起きる?原因・時期別特徴・解消法・妊娠高血圧症候群との見分け方を元看護師が解説
妊娠中の海外旅行——「後悔した」の中身を先に知っておく
国内旅行とは、判断の前提がまったく違います
妊娠中の海外旅行について調べる方がとても多いのは、行った人・行けなかった人の両方が悩むテーマだからだと思います。行かなかったことを心残りに感じる人もいれば、行って大変な思いをした人もいます。
ここでは「行っていい・悪い」ではなく、判断するために知っておきたい材料を並べます。読んだうえで、ご夫婦で決めてください。
海外旅行保険は、妊娠に関することを対象外にしていることが多い
これがいちばん見落とされやすく、いちばん影響の大きいポイントです。
多くの海外旅行保険では、妊娠・出産・早産・流産、およびこれらに関連する治療は補償の対象外とされています。つまり、旅先で切迫早産になって入院しても、保険がおりない可能性が高いということです。
海外の医療費は日本と桁が違います。入院や手術、まして新生児の治療が必要になれば、請求額が高額になることがあります。さらに、赤ちゃんが現地で産まれてしまうと、治療が終わるまで帰国できず、滞在が長期化することもあります。
感染症と予防接種の問題
渡航先によっては、妊娠中に避けたほうがよい感染症のリスクがあります。蚊が媒介する感染症や、食べ物・水を介した感染症などです。
やっかいなのは、渡航に必要な予防接種のなかに、妊娠中には受けられないものがあることです。生ワクチンは原則として妊娠中は避けるとされています。つまり「予防接種を受けて備える」という対策が取りにくくなります。
渡航先ごとの情報は、厚生労働省検疫所(FORTH)のサイトで確認できます。行き先が決まったら、渡航前に一度は目を通しておいてください。
参考 ここに注意!海外渡航にあたって厚生労働省検疫所 FORTH
現地で病院にかかるという現実
言葉の問題は、思っている以上に大きく立ちはだかります。おなかの張りの程度や出血の様子を、外国語で正確に伝えるのはとても難しいことです。日本語で対応してもらえる医療機関がある都市は限られます。
また、母子健康手帳はそのままでは通じません。これまでの経過を英語でまとめたメモを持っていくと、いざというときに役立ちます。妊娠週数、出産予定日、血液型、既往歴、飲んでいる薬、これまでの妊娠経過——これだけでも書いておくと違います。
それでも行くかどうかを決める4つの問い
海外旅行に行くかどうか迷ったら、この4つに答えてみてください。
- 主治医に行程を伝えて、了解を得られていますか?
- 妊娠に関することが補償される保険を、確認したうえで用意できていますか?
- 現地で入院になった場合の費用を、自費で負担できますか?
- そこで産まれてしまった場合に、滞在が長期化することを受け入れられますか?
4つすべてに「はい」と言えるなら、判断材料はそろっています。ひとつでも「いいえ」や「わからない」があるなら、行き先を国内に変えるほうが安心です。
ちなみ(元看護師)
妊娠中の温泉旅行は大丈夫?
温泉の禁忌症から「妊娠中」は削除されています
「妊婦は温泉に入ってはいけない」と聞いたことがある方は多いと思います。実はこれ、すでに見直されています。
環境省は2014年(平成26年)7月、温泉法にもとづく禁忌症の掲示内容を改定し、それまで入浴の禁忌症に含まれていた「妊娠中(とくに初期と末期)」を削除しました。1982年(昭和57年)の基準以来、32年ぶりの見直しでした。医学的にそれを支持する明確な根拠が確認できなかった、という理由です。
参考 温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等について環境省
つまり、温泉に入ること自体が妊娠中に禁止されているわけではありません。古い掲示がそのまま残っている施設もありますが、現在の基準ではそうなっています。
ただし、気をつけることは温泉ならではです
お湯の成分より、環境のほうに注意が必要です。
- 転倒に気をつける——濡れた石畳・段差・階段は本当に滑ります。妊娠中は重心が変わっていて、とっさに踏ん張れません。手すりを使い、ゆっくり歩いてください
- のぼせに気をつける——長湯は避けて、ぬるめのお湯に短時間。妊娠中はもともと血圧が変動しやすく、めまいや立ちくらみが起きやすくなっています
- ひとりで入らない——めまいが起きたとき、誰かがそばにいるかどうかで結果が変わります。可能なら貸切風呂や部屋風呂を選んで、パートナーと一緒に入れる形にすると安心です
- サウナ・高温浴は避ける——体温を大きく上げる入り方はすすめられません
- 水分をとる——入浴前後にしっかり飲んでください
妊娠中のめまいはなぜ起きる?タイプ別の原因・対処法・仕事の休み方を元看護師が解説
宿を選ぶときは、部屋に風呂がついているか、貸切風呂を予約できるかを条件に入れると、そのまま安全対策になります。

妊娠中の旅行に持っていくもの
絶対に忘れてはいけない3点
これだけは、どんなに短い旅行でも必ず持っていってください。
- 母子健康手帳——旅先で受診したとき、これがあるかないかで対応の速さがまったく違います。妊娠経過がすべて書かれている、あなたの医療記録です
- 健康保険証(またはマイナ保険証)
- 診察券とかかりつけの電話番号——旅先の病院から問い合わせてもらえることがあります。スマートフォンに登録しておくだけでなく、紙にも控えておくと安心です
母子手帳はいつもらう?もらい方・持ち物・「まだ早い」と言われる理由を元看護師が解説
あると助かるもの
- 飲みやすい飲み物——移動中に手元にあるだけで安心感が違います
- 小分けに食べられるもの——空腹で気持ち悪くなるタイプの方は必須です
- 羽織るもの——冷房や車内の冷えは、おなかの張りにつながります
- クッションや腰当て——長時間座るときに腰の負担が減ります
- 歩きやすい靴——ヒールは避けてください。転倒予防そのものです
- ナプキンや下着の替え——出血やおりものの変化に備えて
- 飲んでいる薬・処方されているもの——切らさないように多めに
- マタニティマーク——席をゆずってもらえることがあります
旅行を中止する・すぐ受診するサイン
この症状が出たら、予定より受診を優先してください
出発前でも、旅行中でも同じです。次の症状があるときは、予定をキャンセルしてでも受診してください。
- おなかの張りが規則的に続く、休んでもおさまらない
- 出血がある——量が少なくても、色が茶色でも、まず連絡してください
- 破水したかもしれない——生温かい液体が流れ出る、止まらない
- 強い腹痛がある
- 胎動をいつもより感じない(胎動を感じる時期に入っている場合)
- 激しい頭痛、目がちかちかする、急にむくみが強くなった
- 発熱がある
- ふくらはぎが片方だけ腫れて痛む
妊娠中のお腹の張りはなぜ起こる?時期別の原因と対処法、危険なサインの見分け方を元看護師が解説
判断に迷ったら、まずかかりつけに電話してください。旅先からでもかまいません。状況を伝えれば「近くの病院へ行ってください」「様子を見て大丈夫です」と指示をもらえます。電話で相談することに遠慮はいりません。そのための連絡先です。
旅先で受診することになったら
- かかりつけに電話して指示を仰ぐ
- 近くの産科のある病院に電話してから向かう——いきなり行くと受け入れられないことがあります
- 母子健康手帳を必ず持っていく
- 妊娠週数・出産予定日・かかりつけ名をすぐ言えるようにしておく
- 自力で運転しない——パートナーに運転してもらうか、救急車を呼んでください
地域によっては、救急車を呼ぶべきか迷ったときに相談できる救急安心センター事業(#7119)が使えます。全国一律ではないので、出かける先で使えるかどうかを出発前に調べておくと安心です。
「行かない」という選択も、まったく普通のことです
行けなかったことを後悔しないために
ここまで読んで、「やっぱりやめておこうかな」と思った方もいると思います。その判断は、まったく普通で、まったく正しい判断です。
SNSを見ていると、マタ旅を楽しんでいる投稿がたくさん流れてきます。でもそこに映っているのは、経過が順調で、体調がよくて、条件がそろった人の一部分です。行けなかった人の投稿は流れてきません。
妊娠の経過は本当に人それぞれです。つわりが長く続く人、ずっと張りやすい人、安静の指示が出ている人——行けないことは、あなたが我慢が足りないからでも、心配しすぎだからでもありません。
近くでできる「代わりの楽しみ方」
遠出をしなくても、夫婦ふたりの時間はつくれます。
- 日帰りで、近場の少しいい場所へ行く——移動が短いだけで負担は大きく減ります
- 市内・県内のホテルに1泊する——近場の宿泊なら、何かあってもかかりつけに戻れます
- デイユース(日帰り利用)を使う——部屋でゆっくりして、夕方に帰る
- ふだんより少しいい外食をする
- 産まれたあとに行きたい場所を、ふたりでリストにする
最後のひとつは、意外と効きます。「行けなかった」ではなく「あとで行く」に変えるだけで、気持ちがずいぶん違ってきます。子連れで行ける宿を調べる時間も、それはそれで楽しいものです。
まとめ:判断の材料をそろえてから決める
- 妊娠中の旅行を禁じる決まりはない。ただし旅先にかかりつけはない——自己責任の範囲は確実に広がる
- 最初にやることは健診で相談すること。「いつ・どこへ・どうやって・何泊・誰と」の5つを具体的に伝える
- 行くなら妊娠中期(16〜27週ごろ)。初期はつわりと流産の時期、28週以降は早産を考える時期
- 「安定期」は「安全が保証される期間」という意味ではない
- 行き先は景色ではなく産科のある病院までの距離で選ぶ。車で30分以内が目安
- 片道2〜3時間以内・予定はすかすか・キャンセルできる条件で予約の3点セット
- 車は1〜1時間半ごとに休憩、シートベルトはおなかの下と胸の間を通す
- 飛行機は出産予定日が近づくと診断書や医師の同伴が必要。条件は航空会社ごとに違うので必ず公式サイトで確認
- 長時間座り続けると足に血のかたまりができることがある。水分・足首の運動・こまめに歩く
- 海外は保険が妊娠関連を対象外にしていることが多い。4つの問いに全部「はい」と言えないなら国内に変える
- 温泉は禁忌症から削除済み(2014年・環境省)。注意すべきは転倒とのぼせ。貸切風呂が安心
- 持ち物の絶対3点は母子健康手帳・保険証・診察券とかかりつけの電話番号
- 張り・出血・破水感・強い腹痛・胎動減少・激しい頭痛があれば、予定より受診を優先
- 行かないという選択もまったく普通。日帰り・近場の宿泊でも夫婦の時間はつくれる
妊娠中の旅行は、「行っていい/悪い」で割り切れるものではありません。あなたの経過と、行き先と、行程の組み方によって答えが変わります。
だからこそ、この記事で書いてきたことは全部「判断するための材料」です。材料をそろえて、主治医に相談して、ご夫婦で決める。その順番さえ守れば、行く場合も、行かない場合も、あとから自分を責めずにすみます。
そして当日は、いちばん体がつらいのは自分だということを忘れないでください。予定を半分あきらめてでも、無理をしないほうが、結果的にいい思い出になります。
よくある質問(妊娠中の旅行|FAQ)
Q妊娠中の旅行は何週までなら行けますか?
A.一般的にすすめられるのは妊娠中期、とくに妊娠16週から27週ごろまでです。つわりが落ち着く人が多く、おなかもまだ動きやすい時期にあたります。28週を過ぎると早産の可能性を考える時期に入り、34週以降はいつ陣痛が来てもおかしくないため、基本的には見送りが現実的です。ただしこれは一般的な目安であり、経過によって変わります。切迫早産や前置胎盤などと言われている場合は週数に関係なく相談が必要ですので、必ずかかりつけで確認してください。
Q妊娠中に飛行機に乗っても大丈夫ですか?
A.経過が順調であれば乗ること自体は可能です。ただし出産予定日が近づくと条件がつきます。たとえばANAでは、出産予定日を含めて28日以内の搭乗に医師の診断書(搭乗日を含め7日以内に発行されたもの)の提出が必要とされ、14日以内になると診断書に加えて医師の同伴が求められます。条件は航空会社ごとに異なり、国内線と国際線でも扱いが違うことがあるため、予約前に必ず利用する航空会社の公式サイトで最新の内容を確認してください。機内では水分をとり、1〜2時間ごとに立って歩き、座ったまま足首を動かすことを意識してください。
Q妊娠中に温泉に入ってはいけないというのは本当ですか?
A.現在の基準では、妊娠中は温泉の禁忌症に含まれていません。環境省が2014年(平成26年)7月に温泉法にもとづく掲示内容を改定し、それまで入っていた「妊娠中(とくに初期と末期)」を削除しました。1982年の基準以来32年ぶりの見直しで、医学的な明確な根拠が確認できなかったことが理由とされています。ただし注意が必要なのはお湯の成分ではなく環境のほうで、濡れた床での転倒、長湯によるのぼせ、ひとりで入っているときのめまいには気をつけてください。貸切風呂や部屋風呂を選んでパートナーと一緒に入れる形にすると安心です。
Q妊娠中の海外旅行はやめたほうがいいですか?
A.絶対に行けないわけではありませんが、国内旅行とは判断の前提が大きく違います。いちばん大きいのは保険の問題で、多くの海外旅行保険は妊娠・出産・早産・流産に関連する治療を補償の対象外としています。海外の医療費は日本より高額なことが多く、入院や新生児の治療が必要になれば負担は大きくなりますし、現地で出産した場合は帰国できず滞在が長期化することもあります。主治医の了解があるか、妊娠関連が補償される保険を確認できているか、自費で負担できるか、長期滞在を受け入れられるか——この4つすべてに「はい」と言えないのであれば、行き先を国内に変えるほうが安心です。
Q旅行先はどう選べばいいですか?
A.景色や行きたさではなく、産科のある病院までの距離で選んでください。滞在先から車で30分以内に産科のある病院があるか、その病院が救急を受け付けているか、滞在先が携帯電話の圏内か——この3つを先に確認します。この観点でいくと、離島・山奥の一軒宿・船でしか行けない場所は妊娠中の行き先としては不向きです。逆に地方都市の中心部や大きな温泉街は病院が近いことが多く、選びやすくなります。地図アプリで宿泊先の周辺を「産婦人科」で検索してみるのが手軽な確認方法です。
Q旅行中におなかが張ったらどうすればいいですか?
A.まず予定を中断して横になり、体を休めてください。休んでおさまるようなら様子を見られますが、規則的に続く、休んでもおさまらない、出血をともなう、強い腹痛がある——このようなときは予定をキャンセルしてでも受診してください。判断に迷うときは、旅先からでもかかりつけに電話して指示を仰いでください。受診する場合は、いきなり行くのではなく近くの産科のある病院に電話してから向かい、母子健康手帳を必ず持っていってください。自分で運転して向かうのは避けてください。
続けて読みたい関連記事
妊娠中の運動はどこまでOK?向いている運動・やめるサイン・家でできることを元看護師が解説

