「産休に入ったら、お給料ってどうなるんだろう」——妊娠がわかって職場に報告し、産休の時期の見当がついたころ、次にやってくるのがこの不安だと思います。
調べてみると「産休手当」「出産手当金」「出産育児一時金」「育児休業給付金」と似た名前の制度が次々に出てきて、どれが自分に関係あるのかわからなくなる。しかも金額の話になると、急に計算式が出てきて読む気がなくなる。そういう方がとても多いです。
この記事では、元看護師で2児の母である私「ちなみ」が、産休中の給料がどうなるのか、出産手当金はいくらもらえるのか、その金額を自分の数字でどう計算するのか、いつ申請していつ振り込まれるのかを、全国健康保険協会(協会けんぽ)と厚生労働省の公式情報にもとづいて順番に整理しました。
先に結論だけ書いておきます。産休中の給料は原則として出ません。そのかわりに、健康保険から「出産手当金」が支給されます。金額は、あなたのこれまでの給与額から機械的に決まります。この順番で理解すると、一気に見通しがよくなります。
産休中、会社からの給料はどうなる?
法律は「休ませなさい」とは言うが「払いなさい」とは言っていない
いちばん現実的なところから書きます。産休中の給料を支払う義務は、会社にはありません。
産前産後休業の根拠は労働基準法第65条ですが、この条文が定めているのは「産前6週間は請求があれば休ませること」「産後8週間は働かせてはいけないこと」という休ませる義務だけです。その間の賃金については書かれていません。つまり、法律上は無給でかまわないということになります。
ここで多くの方が「働いていないのに、どうやって生活するの?」と不安になります。その空白を埋めるために用意されているのが、次の章で説明する健康保険からの出産手当金です。給料の代わりに、勤務先ではなく健康保険からお金が出る、という構造になっています。
「産休中も給料が出る会社」もあります
法律上は無給でよい、というだけで、会社が独自に有給扱いにしているケースもあります。公務員の方や、福利厚生の手厚い企業にお勤めの方では珍しくありません。
ただし、ここには知っておくべき仕組みがあります。産休中に会社から給料が出ている場合、その分だけ出産手当金は減ります。協会けんぽは「休んだ期間について給与の支払いがあっても、その給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は、差額が支給される」と説明しています。逆にいえば、給料の日額のほうが出産手当金の日額より多ければ、出産手当金は支給されません。
二重取りはできない、という考え方です。損をしているわけではなく、「給料が出るならそちらが優先。足りない分を健康保険が埋める」という設計だと理解してください。
まず見るべきは就業規則の「産前産後休業」の項目
自分の勤務先がどちらなのかは、就業規則を見るのがいちばん早いです。「産前産後休業」「育児休業」という項目に、給与の扱いが書かれています。手元になければ、人事や総務の担当者に「産休中の給与の扱いはどうなっていますか」と聞けば済む話です。
この確認は早いほどいいです。お金の見通しが立つと、産休に入る時期の決め方も、復帰の考え方も変わってくるからです。妊娠報告のタイミングで一緒に聞いてしまうのが、結局いちばん楽だと思います。
ちなみ(元看護師)

産休中の収入を支える「出産手当金」とは
「産休手当」と呼ばれているのは、この出産手当金のこと
ネットでよく見かける「産休手当」という名前の制度は、法律上は存在しません。みなさんが「産休手当」と呼んでいるものの正体は、健康保険から支給される「出産手当金」です。呼び名が2つあるせいで「別々の制度なのでは」と混乱しやすいのですが、同じものだと考えて大丈夫です。
協会けんぽは出産手当金を、「被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合」に支給されるもの、と説明しています。産休という休みそのものに対してではなく、「休んだために給料が入らなかった日」に対してお金が出る、という点がポイントです。
お金の出どころは会社ではなく健康保険
出産手当金を払うのは勤務先ではなく、あなたが加入している健康保険(協会けんぽ、または勤務先の健康保険組合)です。毎月の給与から引かれている健康保険料の、いわば還元にあたります。
ここを理解しておくと、後の手続きの話がわかりやすくなります。申請先は会社ではなく健康保険であり、会社は「本当にこの期間休んでいて、給料を払っていません」と証明する立場にすぎません。だから申請書には、あなたが書く欄・会社が書く欄・お医者さんや助産師さんが書く欄の3種類があるのです。
対象になるのは「健康保険の被保険者本人」
出産手当金を受け取れるのは、自分自身が勤務先の健康保険に加入している人(被保険者本人)です。正社員かどうかは関係ありません。パートでも契約社員でも派遣社員でも、勤務先の健康保険に入っていて、産休を取り、その間の給料が出ないのであれば対象になります。
- 勤務先の健康保険の被保険者であること(夫の扶養に入っている人・国民健康保険の人は対象外)
- 出産のために仕事を休んでいること(産前産後休業を取っていること)
- その休んだ期間について給与の支払いを受けていないこと(給与が一部出ている場合は差額のみ)
この3つがそろっていれば、雇用形態や勤続年数にかかわらず対象になります。「入社してまだ半年だから無理だろう」と自己判断してあきらめてしまう方がいますが、それはもったいない話です。加入期間が短い場合の計算方法もきちんと用意されています(後ほど説明します)。
出産手当金はいくら?計算式を分解して考える
計算の土台になるのは「標準報酬月額」
金額の話をする前に、ひとつだけ用語を押さえてください。標準報酬月額です。
これは、毎月の給与(基本給だけでなく残業代や通勤手当なども含んだ報酬)を、区切りのよい幅で等級に当てはめた金額のことです。社会保険料を計算するために使われている数字で、実際の手取りとも、額面とも、少しずれます。出産手当金は、この標準報酬月額をもとに計算されます。
自分の標準報酬月額は、勤務先の担当者に聞くのがいちばん確実です。給与明細に記載されている会社もあります。わからない場合は「社会保険の計算に使っている標準報酬月額を教えてください」と聞けば通じます。
計算式は3ステップ
協会けんぽの計算は、次の3段階です。難しそうに見えますが、やっていることは「平均して、30で割って、3分の2にする」だけです。
| 手順 | やること |
|---|---|
| ステップ1 | 支給が始まる日より前の12か月分の標準報酬月額を平均する |
| ステップ2 | その平均額を30で割る(10円未満は四捨五入) |
| ステップ3 | さらに3分の2をかける(1円未満は四捨五入)=1日あたりの支給額 |
ここで出てきた1日あたりの金額に、休んだ日数をかけたものが、受け取れる総額になります。ざっくり言えば「これまでの月給のおよそ3分の2が、休んだ日数分もらえる」というイメージです。
協会けんぽの計算例をたどってみる
協会けんぽが公式サイトに載せている例で確認してみましょう。12か月の標準報酬月額を平均したら17万円だった方のケースです。
- 17万円 ÷ 30 = 5,670円(10円未満を四捨五入)
- 5,670円 × 3分の2 = 3,780円(1円未満を四捨五入)
- これが1日あたりの出産手当金
もし出産予定日どおりに出産して、産前42日・産後56日の合計98日をまるまる休んだ場合は、3,780円 × 98日 = 370,440円ということになります。数式で見ると難しく感じますが、電卓を3回叩けば出る計算です。
標準報酬月額べつの早見表
自分の数字を当てはめやすいように、標準報酬月額ごとの1日あたりの金額と、98日分の目安を上の計算式で計算しておきました。98日というのは「出産予定日どおりに生まれて、産前42日・産後56日をすべて休んだ場合」の日数です。
| 標準報酬月額 | 1日あたりの支給額 | 98日分の目安 |
|---|---|---|
| 16万円 | 3,553円 | 約34.8万円 |
| 20万円 | 4,447円 | 約43.6万円 |
| 24万円 | 5,333円 | 約52.3万円 |
| 26万円 | 5,780円 | 約56.6万円 |
| 28万円 | 6,220円 | 約61.0万円 |
| 30万円 | 6,667円 | 約65.3万円 |
| 34万円 | 7,553円 | 約74.0万円 |
| 38万円 | 8,447円 | 約82.8万円 |
| 41万円 | 9,113円 | 約89.3万円 |
参考 産休・育休中の経済的支援 かんたん試算ツール厚生労働省
入社して1年たっていない人はどう計算する?
「12か月分を平均する」と言われても、入社して半年しかたっていないという方もいますよね。その場合もきちんとルールがあります。
協会けんぽでは、支給が始まる日より前の期間が12か月に満たない場合、次の2つのうち低いほうの額を使って計算することになっています。
- これまでの加入期間の標準報酬月額の平均
- 全被保険者の標準報酬月額の平均額(支給開始日が令和7年4月1日以降の方は32万円、令和7年3月31日以前の方は30万円)
つまり、給与が高めの方が加入して間もない場合は、32万円を上限とした計算になるということです。加入期間が短いからといって、もらえないわけではありません。ここは誤解している方が本当に多いので、強調しておきます。
何日分もらえる?対象になる期間の数え方
出産予定日以前42日から、出産の翌日以後56日まで
出産手当金の対象になるのは、出産の日(実際の出産が予定日より後になったときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産の翌日以後56日目までの範囲で、実際に会社を休んだ期間です。
42日は産前6週間、56日は産後8週間のことです。産休の期間とぴったり重なるように設計されています。
数え方でひっかかりやすいのが「出産日はどちらに入るのか」という点ですが、協会けんぽは出産日は「出産の日以前」の期間に含まれると明記しています。つまり出産日は産前にカウントされ、産後は出産の翌日からスタートします。
予定日より遅れた場合・早まった場合
ここが、多くの方がいちばん不安に思うところです。結論から書きます。
- 予定日より遅れて生まれた場合——遅れた期間についても出産手当金が支給されます。産前が42日より長くなる、というイメージです
- 予定日より早く生まれた場合——産前の期間はその分短くなります。ただし産後の56日は、実際の出産日の翌日から数えるので変わりません
「予定日を過ぎてしまったら、その分は無給になるのでは」と心配される方がいますが、その心配は不要です。遅れた日数分はきちんと対象になります。産休そのものの期間の数え方については、こちらの記事で日付の出し方まで詳しく整理しています。
産休はいつから?産前6週・産後8週の数え方と出産予定日がずれたときの扱いを元看護師が解説
出勤した日・給料が出た日は対象から外れる
出産手当金は「休んだ日」に対して1日単位で計算されるお金です。そのため、次のような日は対象から外れます。
- 産前休業に入る前に出勤した日(産前は請求して初めて休みになるので、ぎりぎりまで働いた日は対象外)
- 有給休暇を使って給料が出ている日(給料の日額のほうが多ければ支給されません)
- 会社から産休中の給与が支払われている日(差額のみの支給になります)
「産休前に有給を消化してから入るべきか」で迷う方も多いのですが、有給を使うと、その日は給料が出るぶん出産手当金の対象から外れます。どちらが得かは、有給の日額と出産手当金の日額(月給のおよそ3分の2)を比べれば見当がつきます。一般的には有給のほうが日額は高くなりますが、有給を残しておきたいかどうかも含めて、自分の優先順位で決めていい部分です。

出産手当金がもらえないのはどんなとき?
国民健康保険に加入している人(自営業・フリーランス)
もっとも多いのがこのケースです。国民健康保険には、出産手当金にあたる給付が用意されていないのが一般的です。法律上は市区町村が任意で行える給付という位置づけになっていますが、実際に実施している自治体はほとんどありません。
自営業やフリーランスの方、勤務先の社会保険に入っていない方は、出産手当金は受け取れないという前提で資金計画を立てる必要があります。ただし出産育児一時金は国民健康保険からも支給されますし、近年は国民健康保険にも産前産後期間の保険料が免除される仕組みが設けられています。対象になるかどうかは、お住まいの市区町村の国民健康保険の窓口で確認してください。
夫の扶養に入っている人
出産手当金は被保険者本人に支給されるものです。夫の健康保険の扶養に入っている方(被扶養者)は、対象外になります。
ここは「夫が会社員だから大丈夫」と思い込みやすいところなので注意してください。夫の健康保険から出るのは出産育児一時金(家族出産育児一時金)であって、出産手当金ではありません。
社会保険に加入していないパート・アルバイト
パートやアルバイトでも、勤務先の健康保険に加入していれば対象です。判断の分かれ目は雇用形態ではなく、社会保険に入っているかどうかです。
給与明細を見て「健康保険料」「厚生年金保険料」が引かれていれば、あなたは被保険者です。引かれていなければ、扶養に入っているか、国民健康保険に加入していることになります。まずは給与明細を確認してみてください。
出産を機に退職する場合
退職すると健康保険の資格を失うので、原則として出産手当金は受け取れなくなります。ただし例外があります。協会けんぽは、次の2つをどちらも満たす場合は資格を失ったあとも支給を受けられる、としています。
- 資格喪失日の前日(退職日など)までに、被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続被保険者だった期間は除きます)
- 資格を喪失した日の前日に、出産手当金を受けている、または受けられる状態であること
注意:退職日に出勤してしまうと、資格喪失後の出産手当金は受けられません。
この「退職日に出勤したかどうか」という一点で結果が変わるのは、知らないと防ぎようがない落とし穴です。最終出社日と退職日を同じ日にしない、という段取りが必要になります。退職を考えている方は、必ず事前に加入している健康保険に確認してください。
傷病手当金を受けているとき
切迫早産などで産休前から長く休んでいて、傷病手当金を受け取っている方もいます。この場合、出産手当金と傷病手当金を重複して受け取ることはできません。傷病手当金の支給額のほうが多いときは、その差額が傷病手当金として支給される、という調整が行われます。
看護師時代、切迫早産で入院された患者さんから「産休に入る前から休んでいるけれど、お金はどうなるのか」と相談されたことが何度かありました。制度としては切れ目なくつながるように設計されていますが、手続きは別々です。産休に入る前から休職している方は、早めに勤務先と健康保険に相談しておくと安心です。
参考 出産手当金|出産育児一時金・出産手当金|給付と手続き全国健康保険協会(協会けんぽ)
いつ申請して、いつ振り込まれる?
申請書は3つのパートでできている
手続きに使うのは「健康保険出産手当金支給申請書」という書類です。中身は大きく3つに分かれています。
- あなたが書く欄——氏名・振込先口座・申請する期間など
- 医師または助産師が書く欄——出産予定日、出産日など(出産した産院で記入してもらいます)
- 勤務先が書く欄——休んだ期間と、その間に給与を支払っていないことの証明
つまり自分ひとりでは完結しません。産院に記入をお願いする必要があるので、入院中か退院時に「出産手当金の書類をお願いします」と伝えておくのがスムーズです。書類の記入には文書料がかかる産院もあります。
提出先は、加入している健康保険です。協会けんぽの場合はお住まいの都道府県支部に提出します。ただし実務上は会社が取りまとめて提出してくれるケースが多いので、まずは勤務先の担当者に流れを確認してください。
申請できるのは「休んだ期間が過ぎてから」
ここが見落とされがちなポイントです。申請書には「この期間、休んでいて給料は出ていません」という証明が必要なので、その期間が過ぎたあとでなければ申請できません。
そのため実務では、産後休業が明けてから、産前・産後をまとめて1回で申請する形がよく取られます。産前と産後を分けて複数回申請することもできますが、回数が増えるとそのつど会社と産院の記入が必要になります。どうするかは勤務先や健康保険の運用によるので、確認してから決めてください。
つまり「産休に入ったらすぐ振り込まれる」制度ではありません。ここを知らないと、産休に入って1か月たっても何も入ってこないことに不安になります。出産手当金が入るのは、早くても産後2か月以降だと考えて、家計の準備をしておくのが現実的です。
振込までの期間は加入先によって違う
申請書が受理されてから振り込まれるまでの期間は、加入している健康保険や時期によって変わります。「必ず何週間で入る」と言い切れるものではありません。
支給が決まると支給決定通知書が届き、そこに支給額と振込予定が記載されます。想定より時間がかかっていて不安なときは、加入している健康保険(協会けんぽの支部や健康保険組合)に直接問い合わせるのがいちばん早い解決方法です。会社に聞いても、支払うのは会社ではないので進み具合まではわかりません。
申請期限は「休んだ日ごとに、その翌日から2年」
協会けんぽは申請期限について、「健康保険給付を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日(消滅時効の起算日)から2年で時効になります。出産手当金の消滅時効の起算日は、出産のため労務に服さなかった日ごとにその翌日となります」と説明しています。
ややこしい書き方ですが、意味はシンプルです。休んだ1日ごとに、その翌日から2年のカウントが始まるということ。つまり2年放置すると、古い日の分から順に権利が消えていきます。
2年という余裕はありますが、育児が始まると書類仕事は一気に後回しになります。産後の手続きは、里帰りから戻るタイミングなど「区切り」を決めて片づけてしまうのがおすすめです。
参考 健康保険出産手当金支給申請書|健康保険給付の申請書全国健康保険協会(協会けんぽ)
出産手当金のほかにもらえるお金
出産育児一時金(1児につき50万円)
出産手当金と混同されやすいのがこれです。出産育児一時金は「出産費用の補助」で、収入の補償である出産手当金とはまったく別のお金です。
協会けんぽの場合、産科医療補償制度に加入している医療機関で在胎週数22週以降に出産したときは、1児につき50万円が支給されます。双子なら2人分です。国民健康保険の方も、夫の扶養に入っている方も受け取れます——ここが出産手当金との大きな違いです。
受け取り方も特徴的で、直接支払制度を使うと、健康保険から医療機関へ直接支払われます。窓口でまとめて立て替える必要がなくなる仕組みです。出産費用が50万円を下回った場合は差額が支給され、上回った場合は超えた分を医療機関に支払います。
参考 出産育児一時金|出産育児一時金・出産手当金|給付と手続き全国健康保険協会(協会けんぽ)
社会保険料の免除(これが効きます)
意外と見落とされがちですが、家計へのインパクトが大きいのがこれです。産前産後休業の期間中は、健康保険と厚生年金保険の保険料が、本人負担分も会社負担分も免除されます。
しかも免除された期間は「保険料を納めた期間」として扱われるので、将来受け取る年金額が減ることはありません。給与から毎月引かれていた社会保険料がゼロになるぶん、「月給の3分の2」よりも実際の手取り感覚は目減りしにくいという話になります。
ただしこの免除は、勤務先が年金事務所へ「産前産後休業取得者申出書」を提出することで適用されます。自分で手続きするものではありませんが、会社が出し忘れれば免除されません。産休に入る前に「申出書は出してもらえますか」と一言確認しておくと確実です。
育休に入ったら「育児休業給付金」にバトンタッチ
産後休業が終わって育児休業に入ると、今度は育児休業給付金が出ます。ここで出どころが変わります。出産手当金は健康保険、育児休業給付金は雇用保険から支給されるもので、計算のルールも申請先も別です。
時間の流れで並べると、産前休業 → 産後休業(ここまで出産手当金)→ 育児休業(ここから育児休業給付金)という順番になります。切れ目なくつながるように設計されているので、産休の申し出と一緒に育休の申し出も済ませておくと、手続きがスムーズです。金額の目安は厚生労働省の試算ツールで、産休・育休をまとめて試算できます。
医療費が高額になったときの高額療養費
正常な経過の出産は病気ではないため、健康保険は使えません。ただし帝王切開や吸引分娩、切迫早産での入院など、医療行為が加わった部分には健康保険が使えます。その自己負担が一定額を超えたときに使えるのが高額療養費です。
あらかじめ限度額適用認定証を用意しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめられます。帝王切開の可能性がある方は、入院前に加入している健康保険に申請しておくと安心です。妊婦健診そのものの費用と補助券については、こちらの記事で整理しています。
妊婦健診の頻度は?回数・スケジュール・毎回の検査内容と費用を元看護師が解説

産後8週間が明けて育休に入ると、お金の窓口は健康保険から雇用保険に切り替わります。育児休業給付金は、育休開始前6か月の平均的な月給に対して最初の180日が67%、181日目からは50%。2025年4月にできた出生後休業支援給付金の条件を満たせば、最初の最大28日分だけ13%が上乗せされて80%になります。計算の手順と月給べつの早見表、初回の振込が遅くなる理由まで整理した「育児休業給付金はいくらもらえる?67%と50%の計算方法」もあわせてどうぞ。
育児休業給付金はいくらもらえる?67%と50%の計算方法・いつ振り込まれるかを元看護師が解説
出産育児一時金のほうは、出産手当金とは対象も性格も違います。こちらは公的医療保険に入っていれば働き方を問わず受け取れる定額の給付で、夫の扶養に入っている方も自営業の方も対象です。多くの産院では直接支払制度が使えるので50万円を立て替える必要はなく、費用が下回れば差額が戻ってきます。確定申告では出産育児一時金は医療費から差し引きますが、出産手当金は差し引きません。50万円と48.8万円の分かれ目、帝王切開になった場合の扱いまで整理した「出産育児一時金とは?50万円の受け取り方」もあわせてどうぞ。
出産育児一時金とは?50万円の受け取り方・直接支払制度と差額申請を元看護師が解説
夫が産後に休む場合のお金も、あわせて見ておくと家計の全体像がつかめます。産後パパ育休を取ると出生時育児休業給付金が休業開始時賃金日額の67%、さらに夫婦それぞれが14日以上休めば13%が上乗せされて80%になります。社会保険料の免除と非課税が重なるため、手取りではほぼ10割相当です。条件と28日の使い方を整理した「産後パパ育休とは?育休との違い・28日の使い方」もあわせてどうぞ。
産後パパ育休とは?育休との違い・28日の使い方・手取り10割の条件を元看護師が解説
手取りで考えると見えてくる落とし穴
出産手当金に税金はかかりません
「3分の2しかもらえないのか」と落ち込む前に、知っておいてほしいことがあります。出産手当金は、所得税も住民税もかかりません。
健康保険法第62条に「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定められているためです。給料には所得税・住民税・社会保険料がかかりますが、出産手当金にはそれがありません。同じ金額でも、給料と手当金では手元に残る割合が違うということです。
ここに前の章の社会保険料免除を足すと、額面では3分の2でも、手取りベースでは8割前後の感覚になることが多いと言われています。もちろん人によって違いますが、「3分の2」という数字だけを見て絶望する必要はないということは知っておいてください。
ただし住民税の支払いは続きます
逆に、落とし穴のほうも書いておきます。住民税は、前年の所得に対してかかる税金です。産休・育休で今年の収入が減っても、前年に働いていた分の住民税は、そのまま支払う必要があります。
給与から天引きされていた住民税は、給与が止まると天引きできなくなるため、会社によっては「自分で納付書で払う」形に切り替わったり、「残りをまとめて給与から引く」形になったりします。産休に入る直前の給与が、住民税をまとめて引かれて極端に少なくなるケースもあります。
これは知らないと本当に驚きます。産休に入る前に「住民税はどういう扱いになりますか」と確認しておくだけで、心の準備ができます。
産休・育休のあと、復職してからのお金も見通しておくと安心です。時短勤務にすると給料は働く時間の分だけ減りますが、2歳未満の子を育てているあいだは育児時短就業給付金として賃金の10%が支給されます。さらに、時短で下がった給料に保険料を合わせる手続きと、それでも年金を減らさない特例があり、どちらも申し出制です。「時短勤務の給料はいくらになる?」で計算と手続きをまとめています。
時短勤務の給料はいくらになる?育児時短就業給付金10%の計算と年金を減らさない手続きを元看護師が解説
産休に入る前にやっておきたいこと
お金まわりで、産休前に済ませておくと後がラクになることをまとめます。産休に入ってからでは連絡が取りにくくなりますし、産後は思っている以上に手続きどころではありません。
- 就業規則で産休中の給与の扱いを確認する——無給か、一部支給か、全額支給か
- 自分の標準報酬月額を確認する——金額の見当をつける土台になります
- 「産前産後休業取得者申出書」を出してもらえるか確認する——社会保険料の免除に必要です
- 住民税の扱いを確認する——天引きが続くのか、納付書になるのか
- 出産手当金の申請書を入手し、流れを聞いておく——会社経由か、自分で提出か
- 産院に記入をお願いすることを伝えておく——入院時に持参できるよう準備
- 振込先口座を決めておく——本人名義の口座が必要です
- 育休の申し出も同時に済ませる——育児休業給付金の手続きにつながります
出産準備そのもののスケジュールは、こちらの記事で妊娠月数ごとに整理しています。お金の準備と物の準備は、同じ時期に並行して進めるのが効率的です。
出産準備はいつから始める?妊娠月数別スケジュールと「買わなくてよかった」を防ぐ考え方を元看護師が解説
まとめ|金額を知ると、不安はかなり小さくなる
産休中のお金の話は、制度の名前が似ていて、しかも計算式が出てくるせいで「難しいもの」に見えます。でも分解してみると、やっていることは「これまでの給料を平均して、30で割って、3分の2にする」だけでした。
- 産休中の給料を払う義務は会社にない。法律上は無給でよいことになっている
- その空白を埋めるのが健康保険から出る「出産手当金」。「産休手当」と呼ばれているのはこれ
- 金額は12か月分の標準報酬月額の平均 ÷30 ×3分の2で1日あたりの額が決まる
- 対象は出産予定日以前42日〜出産の翌日以後56日のうち、実際に休んで給料が出なかった日
- 国民健康保険の人・夫の扶養の人は対象外。ただし出産育児一時金は受け取れる
- 申請は休んだ期間が過ぎてから。産後にまとめて申請するのが一般的で、期限は休んだ日ごとに翌日から2年
- 出産手当金は非課税+産休中は社会保険料も免除。額面の3分の2でも手取りの目減りは思ったより小さい
- ただし住民税の支払いは続く。産休前に扱いを確認しておく
お金の不安のほとんどは、「いくら入るか」と「いつ入るか」がわからないことから来ています。逆にいえば、その2つに見当がついた時点で、不安はかなり小さくなります。
まずは自分の標準報酬月額を確認して、この記事の計算式に当てはめてみるところから始めてみてください。そして正確な金額は、勤務先の担当者と、加入している健康保険に確認を。その一手間が、産休に入ってからの安心につながります。
ちなみ(元看護師)
よくある質問
Q月給20万円だと、出産手当金はいくらになりますか?
A.標準報酬月額が20万円で、それが12か月続いていた場合の計算は、20万円÷30=6,670円(10円未満四捨五入)、6,670円×3分の2=4,447円(1円未満四捨五入)で、1日あたり4,447円です。出産予定日どおりに生まれて産前42日・産後56日の98日すべてを休んだ場合は、およそ43万6千円という計算になります。ただし標準報酬月額は額面の月給とは一致しませんし、休んだ日数でも変わります。正確な金額は勤務先か加入している健康保険に確認してください。
Q産休手当と出産手当金は違うものですか?
A.同じものです。「産休手当」という名前の制度は法律上は存在せず、みなさんが産休手当と呼んでいるのは健康保険から支給される「出産手当金」のことです。一方で「出産育児一時金」は別の制度で、こちらは出産費用の補助として1児につき50万円(協会けんぽ・産科医療補償制度加入機関で在胎週数22週以降に出産した場合)が支給されます。
Q出産手当金はいつ振り込まれますか?
A.申請できるのは、対象となる期間を休み終えたあとです。産後休業が明けてからまとめて申請する形が一般的なので、早くても産後2か月以降の振り込みになると考えておくと安心です。申請から振り込みまでの期間は加入している健康保険によって異なります。想定より遅いと感じたら、会社ではなく加入先の健康保険(協会けんぽの支部や健康保険組合)に直接問い合わせてください。
Q扶養内のパートでも出産手当金はもらえますか?
A.夫の健康保険の扶養に入っている場合(被扶養者)は対象外です。判断の分かれ目は雇用形態ではなく、自分自身が勤務先の健康保険に加入しているかどうかです。給与明細に「健康保険料」「厚生年金保険料」の天引きがあれば被保険者なので、パートでも対象になります。
Q産休前に有給を使うと損しますか?
A.有給を使った日は給料が出るため、その日は出産手当金の対象から外れます(給料の日額のほうが多い場合)。出産手当金は月給のおよそ3分の2なので、日額だけを比べれば一般的には有給のほうが高くなります。ただし有給を残しておきたいかどうかは人それぞれなので、金額だけで決める必要はありません。
Q出産を機に退職する場合、出産手当金はもらえますか?
A.原則として資格を失うと受け取れませんが、例外があります。退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり(任意継続の期間は除く)、かつ資格を喪失した日の前日に出産手当金を受けている、または受けられる状態であれば、退職後も引き続き受け取れます。注意したいのは、退職日に出勤してしまうと資格喪失後の出産手当金は受けられないという点です。退職を予定している方は事前に加入先の健康保険に確認してください。
Q出産手当金に税金はかかりますか?
A.かかりません。健康保険法第62条で「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定められているため、所得税も住民税もかかりません。ただし住民税は前年の所得に対して課税されるので、前年に働いた分の住民税の支払いは産休中も続きます。産休前に会社へ納付方法を確認しておくと安心です。
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